過剰ノルマ、パワハラ、選挙違反疑惑…「日本郵政」が抱える深い闇(2)認知症の高齢者を保険勧誘

 このような圧力下で行われる保険勧誘だが、全国の郵便局で発覚した不正事案についての内部文書によると、不正のやり口はさまざまで、認知症の高齢者を無理やり加入させ返金拒否、持病を隠して加入させる不告知教唆など、18年までの3年半に寄せられていた営業に対する苦情は、約1万4000件もあったとされている。契約内容を理解していない68歳の顧客に5年間で27件もの保険に加入させ、年間の保険料が約530万円などと、問題事案の具体例も繰り返し報告されている。

「保険営業の現場の話を聞かせてくれた男性は、取材の途中でしばらく黙り込むと、意を決したように『僕は2回、お客さんをダマして加入させたことがあります』と告白してくれました。このうち1度は本来は持病があって保険に加入できない顧客に対し、『それぐらいの病状なら大丈夫ですよ』と話し、告知しないよう促したにもかかわらず、顧客は病気が悪化して入院。保険金を請求した際、かんぽ生命は告知義務違反があったとして支払いを拒否したそうです。顧客は『局員に告知しなくていいと言われた』と抗議しましたが、男性は社内の調査に『そんな説明はしていない』とウソをつき通し逃げ切りました。その結果、男性は心を病み、心療内科に通うことになり『ダマして申し訳なかった。契約を取らないと、局に帰れなかったんです』と震える声で語っていました。今でも涙があふれる姿が忘れられません」(宮崎氏)

 巨大組織においてパワハラも厭わない現場への締めつけが行われる背景には、厳しい経営環境がある。郵便物流事業は直近の24年3月期の決算で、営業損益が赤字を計上しているが、

「日本郵便の公表資料によると、直営の約2万局のうち3割が過疎地に立地し、このうち1日の平均来客数が30人以下の局は約2700局。多くの郵便局が赤字経営だとみられます。決算資料によると、こうした郵便局網の窓口事業を維持するために必要な人件費などの営業費用は毎年1兆円ほど。このうち約7割は保険と銀行業務の収益で賄っている。つまり、全国の郵便局を守るため、無理をしてでも収益を上げ、コストカットをしなければならない構造があり、結果、現場に過剰なノルマが課され、保険の不正販売問題や過労自殺などが引き起こされたとも言えます」(宮崎氏)

 通常、赤字経営に対しては、不採算支店の統廃合などの対策が考えられる。JRは赤字路線を廃止し、漁協や農協でも、金融業務を取り扱う店舗数を3~4割削減してきているが、郵政グループでは、合理化が一向に進まない。

 というのも、2万近くの小規模郵便局の局長たちが、任意団体を作って、参院選のたびに与党に局長出身の議員を送り込み、政治を巻き込んで郵便局の数が減らないように画策してきたからだ。実際、12年に成立した郵政民営化法改正案では、郵便局は過疎地や離島の住民に対しても保険や貯金のサービスを提供しなければならないようになり、郵便局網の統廃合がより困難になっている。

「局長たちは、郵便局の統廃合を許さないだけでなく、自分たちの意に沿う人物しか局長に就任できないという慣例を日本郵便に認めさせるなどして“既得権”を守っています。『地域に密着した郵便局を守る』という大義名分があるにせよ、その活動の弊害はあまりにも大きいように思えます。民間企業になった以上は、サービス提供に支障のない範囲で経営の合理化を図るのが自然の流れではないのかと思います」(宮崎氏)

 宮崎氏のもとに届いた内部告発の中に「現役の郵便局長です。局長は票の獲得にノルマを課されており、業務そっちのけで選挙運動をさせられています」という嘆きもあった。その局長たちで構成される任意団体は、組織内候補者を当選させるために公職選挙法に違反するような選挙活動をしている疑いもあるというのである。問題が山積みの郵政グループ。利用する国民にとっても、そこで働く人たちにとっても、まったく明るい兆しが見えないようだ。

*週刊アサヒ芸能2月27日・3月6日号掲載

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