過剰ノルマ、パワハラ、選挙違反疑惑…「日本郵政」が抱える深い闇(1)新卒が3年以内に7割辞め

 かつて国民的な人気を博したこともある。小泉純一郎総理が目玉政策として進めた郵政民営化。実現から17年余りが経過した今、待ち受けていた現場からは、パワハラや不正に悲鳴を上げる局員たちの声ばかりが聞こえてくるのだった。

 昨今、日本郵政グループを巡り、明るい話題がとんと聞こえてこない。郵便物(普通扱い)の土曜日配達が休止となり、昨年には手紙の郵便料金が84円から110円に値上げ、26 年度以降も再び値上げを迫る可能性が高いという。配達員による郵便物の廃棄や、かんぽ生命保険での不適切な販売などの不祥事案件も重ねて報じられている。

 18年に郵便局員たちがハガキ販売に過剰なノルマを課され、自腹で購入している実態を記事にした西日本新聞記者の宮崎拓朗氏のもとには全国からメールや投書が届くようになった。その大半が日本郵政グループで働く社員からの内部告発で、3年間で合計1000件にも上ったという。

 内部告発には、「私も出勤するのが怖く、電車に飛び込みたくなる時があります」「不正な保険営業が行われています。許されることではありませんが、日々の𠮟責、人格否定等のパワハラに屈して不正をした社員がいるのも事実です。たくさんの同僚が病気になり、退職していきました」などの悲痛な叫びがあった。

 郵便配達の現場では、残業を極力せずに配り終えなくてはならない時短圧力があり、配達員は限界にまで追い込まれている。そんな状態で、さらにハガキや物販などの販売ノルマが課されてしまう。結果、管理側のパワハラが横行し、自死に至る人まで出た。そうした悲痛な声を先頃上梓した「ブラック郵便局」(新潮社)にまとめた宮崎氏が解説する。

「うつに追い込まれ、職場で飛び降り自死した社員の自宅に、その翌日、ノルマをこなすため自腹で購入したゆうパック商品が届いたとご遺族からお聞きしました。年賀ハガキの自爆営業で総額100万円ほどの身銭を切った方もいます」

 保険勧誘の現場も、過剰なノルマが当たり前だった。内部告発をした渉外担当の社員たちは、口々にその厳しさを訴えたという。

「毎朝の朝礼で、その日の目標を叩き込まれることから始まり、局内の壁には社員ごとに『○日までにやります』と書いた宣言書が貼り出され、達成できた社員の分だけが剥がされていくという郵便局もありました。関西地方の渉外社員の男性は『1日5件はアポを入れろ』と指示され、アポが取れなければ、一日中部屋にこもり電話をかけさせられる。多い日には50件にもなり、保険勧誘という本来の目的を隠し『相続税対策のご提案があります』『お会いしてお伝えしたいことがあります』と表向きの訪問理由を説明していたそうです。その男性は『まるで振り込め詐欺のアジトみたいだ』と受話器を握りながら罪悪感に苦しんでいました」(宮崎氏)

 ノルマが達成できない渉外社員には懲罰研修まで行われたという。

「呼び出された渉外社員たちは、持参した反省文を手渡すのですが、幹部らは目を通すこともなく、『頑張りますっていう言葉なんかいらん。いつまでにナンボすんねん。ここで宣言しろ』と恫喝し、渉外社員らの釈明に納得がいかなければ、『足を引っ張ってんのはオマエや。ここで土下座せえ』『各局の金融渉外部に行って、頭下げてこい』と怒鳴り散らしたり、目標に足りない額を借金に見立て、返済を迫るような場面もあったと聞きます。こうした結果、退職者や休職者は相次いでおり『うちの金融渉外部では、新卒が3年以内に7割辞め、通年募集している中途採用者も陰湿な空気に嫌気が差してすぐに辞めます』と九州の渉外社員は教えてくれました」(宮崎氏)

(つづく)

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