私たちは「割引」という言葉に弱い。物価は上がっても給料はほとんど上がらない昨今、日本人はこの50年の中で最も苦しい生活に追い込まれている。限られた予算で日々の家計を守っていくために少しでも安く買いたい。だから「割引」に弱い。当たり前だ。
衣類や家具、電気製品だけではなく、今やテレビショッピングでも割引セールが頻繁に行われている。私たちの生活を支えてくれるスーパーに至っては週末や給料日前後、月初め、月末などを中心に毎日のようにセールを行う。午前中だけとか、午後4時からの特別価格というものもある。客はそのたびにスーパーへ行って、割引された商品を我先に購入する。
それ以外にも、スーパーでは閉店間際の惣菜や弁当などに2~3割引、時には5割引といったシールが貼られていることがある。同じ弁当でも割引されているものと、そうでないものがあったりする。消費期限が数時間違うからだ。
菓子パンや牛乳、漬物などでも同じ。冷凍食品から豆腐や納豆まで、スーパーでは消費期限が迫っている商品を前の方に陳列しているが、多くの人が少しでも消費期限が長いもの、つまり、より新しいものを手に取ろうと棚の奥まで手を伸ばして買っていく。その気持ちもよくわかる。だから消費期限が迫っている商品は、どうしても最後まで残り、割引シールが貼られる運命となるわけだ。
皆さんは割引シールの貼られている商品とそうでないものがある場合、どちらを選びますか?
こんなことを言うと、ジェンダーに敏感な時代に問題になるかもしれないけれど、2割引以上のシールが貼られている商品の場合、女性やシニアの人は大抵、割引の方を買っていく。しかし、若い人や中年までの男性の場合は、割引されていない方を選んで買っていく人も多いそうだ。
私は1割引のシールだったら、大抵は新しい方を買う。2割、3割引だと悩むが、半額だったら、間違いなく半額の方を買う。まあ、人それぞれだし、財布と相談して決めればいいことだと思う。
元の値段があって、2割引とか半額のシールが貼られている場合は、いくら安くなったのかよくわかるけれど、最近のスーパーは「値下げ商品」「お値打ち価格」「特別奉仕品」「割引価格」という文字と共に、280円、549円といったシールが貼られていることもある。これだと元の値段がわからない。ただ、お値打ち価格とか、奉仕品とあるので、きっと安いのだろうと手に取る人も多い。
しかし、この手のシールは十分に気をつけてもらいたい。例えば、昨日まで450円で売られていた商品に「値下げ商品」として430円のシールが貼られていることがある。値下げはされているが、ほとんど同じ値段だ。
中でもこれはひどいなと思ったのは、商品の在庫が残り少なくなり、昨日と同じ価格にもかかわらず割引商品が集められているコーナーに「お値打ち価格」のシールをわざわざ貼って置くことも散見される。
また、昨日まで牛肉全品4割引セールをやっていて、その売れ残りを翌日に2割引のシールを貼って売っていることすらある。売れ残りなのだから、昨日よりも安くなるのが当たり前と思うのだが、実は値段が高くなっているのだ。
少しでも利益を確保したいと必死なのはよくわかるが、商品と価格についてよく知らない人は「きっと割引シールが貼られているんだから安いのだろう」と思い込んでしまう。しかし「お買い得」「お値打ち」といった表現のシールは、割引されてない場合もあるので注意してもらいたい。割引シールに気をつけろ!だ。
こうしたことは、給料がドーンと上がってくれれば、考えなくてもいいことなんだけどね。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。