【今回のお値段「私大」:支出 40億以上(収入40億円前後)(1学年1000人規模の中堅校)】
「物価高」が話題になっている昨今だが、ここ50年の間に大きく値上がりしたものにあげられるのが大学の学費。最低でも5~6倍、国立大学になると20倍以上になっている例もある。今は、私立大の平均的なところで、文系なら4年間で400万円前後、理系で500万~600万円、医歯系なら6年で2000万~3000万円の学費がかかる。仮に学生数が1学年1000人で、年間1人100万円の学費を払うとすれば、トータル40億円前後の収入となる。ある大学関係者によれば、
「あくまで大ざっぱに言えば、そのうち3分の1前後が教授や講師などに払う人件費で、校舎のメンテ、電気、空調などの設備費用に3分の1、残りの3分の1が研究費、図書の購入費、職員の人件費などに充てられ、私立大学で、受け取る学費だけで利益を上げているところは、ほとんどありません」
特に近年、学生集めに苦労している短大や女子大などは、オシャレな校舎やカフェテリアなどの「売りもの」が必要なため、設備費用に多額のおカネがかかる。そうなると、抑えるのが人件費。ことに教授や講師らの給料だ。1コマ90分、週3コマの授業を受け持っている非常勤講師でコマ6000~7000円、月に10万円にもならないことも珍しくない。中小の私立大学で、教授、准教授でもせいぜい年収400万~500万円はざらにあるそうだ。
そんな経営の厳しい私立大学の頼みの綱が国から出る私学助成金だ。学生1人当たり、平均して年14万円前後なら、学生総数4000人で5億円余り。これで施設費も増やせるし、時に利益も出せる。が、金額を決めるのは文科省で、不祥事を起こすなどして、「交付ゼロ」と判断されてしまうケースも。
「厳しいとされる学校経営ですが、最近注目されているのが、ネットでのリモート授業が中心の通信制学科ですね。とにかく施設はいらないし、定員もほぼ制限なく、希望者はどんどん入れられる。ネット環境の整備くらいで支出はそんなに増えないのに、収入が増えるんですから、これはありがたい。普通の大学に併設すれば、事務員も新たに雇う必要もない。それで年間の学費を1人20万円以下に抑えているところもあります」(前出・大学関係者)
定年退職のリタイア組も気楽に受講でき、スクーリングは、夏休み、冬休みなど通常の学生が休みの時に集中してできたりもする。
少子化が加速度的に進む中、「大学が生き残る近道はこれしかない」と考えている人も少なくない。
山中伊知郎(やまなか・いちろう)ほぼ半世紀近く前、通っていた私立大学の学費は月1万円。バイトしただけで払えてしまう金額だった。いや、安かった。卒業後、奨学金の返済に困る人間もいなかった。