2020年に英王室を離脱し、米カリフォルニア州へ移住したヘンリー王子が、回顧録「スペア」を出版したのは昨年1月。ところが、同著の中に「17歳からコカインのような不法薬物を使用した」など、かつてコカインや大麻、マジックマッシュルームなどを使用していたとの記述があったことから、米保守系シンクタンクのヘリテージ財団が国土安全保障省に対し申請書類の開示を要求。しかし同省側は、「公開は、対象者のプライバシーの利益を無効にするほどの公益の利益はない」としてこの要求を拒否。そこで同財団は、情報公開法に基づき米政府を提訴していた。
薬物の使用に厳しい米国では入国の際、薬物を使用した過去があればビザ発給が難しくなる。したがって、過去とはいえ王子の薬物使用が事実であるなら、ビザを申請する際、王子が虚偽の申告をしたことになるわけだ。
この問題を受け、トランプ前大統領は今年3月のインタビューで「11月の大統領選挙で勝利し、ヘンリー王子が米国ビザ申請当時、自身の薬物服用前歴をきちんと明らかにしなかったという事実が明らかになれば、適切な措置を取るつもりだ」と断言。保守政治活動協議会(CPAC)の年次総会演説でも「バイデン政府がヘンリー夫婦にとても寛大だった。事実であれば、とうてい許せないことだ。私は女王を裏切った彼を保護しない」と強調していた。
ところが、そんな発言から半年後となる9月9日、王子の米国ビザ関連文書公開を求めたこの裁判が突然終了していたとの報道が…。
「一報を伝えた10日付の米ニューズ・ウィーク誌によれば、この問題を審理していたワシントンDCのカール・J・ニコルズ判事が9日、ヘリテージ財団の訴えを退け、裁判の終了を宣言したというんです。ただ、判事により判決は下されたものの判決理由は封印されたままで、ヘリテージ財団監視プロジェクトの主任顧問カイル・ブロスナン氏でさえ、『判事がどのような判決を下したかについては何も聞かされていない』として『誰もこの命令や、それが非公開であるという事実を深読みすべきではないのだろう。この事件は特異であり、我々は引き続き状況を監視していく』と猛反論していると報じている。それはそうでしょう。なぜなら薬物使用は第三者の言葉ではなく、本人が著書の中で告白していること。そして、それが法律違反であることは間違いない。それにもかかわらず裁判は非公開で、しかも訴訟の終結理由も分からずじまいでは、裏から何か大きな圧力がかかったと勘ぐられても仕方がない。同誌は『秘密判決』と報じていますが、圧力により法が捻じ曲げられ、その理由も公開されないとなれば、まさに民主主義国家の根源をも揺るがす危険な行為と言わざるを得ません」(国際ジャーナリスト)
財団によれば、政府の弁護士らは当初から、文書公開は「王子のプライバシーへの不当な侵害となるため、確認も否定もできない。これらの記録は、たとえ一部でも公開すれば、本人が明らかにしていない米国での王子の身分が明らかになるため、特に機密性が高い」と主張してきたそうだが、不透明なまま裁判が終結したことで、現段階では命令書が公開されるかどうかも不明。公開されれば、その時点で「秘密判決」の理由が明らかになるかもしれないが、いずれにせよヘンリー王子薬物問題は政府によって完全に「シロ」という判決が下ったことになるわけだ。
「米国では仮に本人が薬物使用を告白しても、それにより刑事事件が起こったり、常習的な薬物使用者だと司法当局が認めない限り、逮捕、起訴されることはなく、ビザを剥奪されたり強制送還されたりすることはない。つまり極端な話、今後王子が飲酒運転をしたり薬物所持で逮捕されたりしない限り、移民局が行動を起こすことはないということ。ただ、この裁判によって米国内におけるヘンリー王子のイメージがさらに下がったことは間違いない。メーガン妃のこともあってイギリスでも叩かれ、移住したアメリカでも叩かれ…。2人を知る関係者の間からは、いっそ別の国に移住したほうが静かに暮らせるのでは、といった声も出ているといわれますから、そんな選択もあるかもしれませんね」(同)
むろん、目立ちたがり屋のメーガン妃が納得するはずはないとは思うが、一度真剣に考えるべき時に来ているのかもしれない。
(灯倫太郎)