7月に入り、いよいよゲリラ豪雨発生の時期がやってきた。先日も大分県日田市で降り続いた大雨の影響により川に架かる橋脚が傾き、全面通行止めとなったが、今年の夏も日本をはじめ、世界のいたるところで豪雨が猛威を振るうことが想像される。
そんな中、中国について上海や北京、天津など、主要都市の約半数が地盤沈下しており、このまま放置すれば数十年後には沿岸部の都市が海に沈む恐れがある、との恐ろしい研究結果が米学術誌「サイエンス」誌に掲載されたのは、今年4月のこと。
同誌に掲載された論文によれば、研究者らは2015年から22年にかけ、中国で人口200万人を超える82都市を対象に、人工衛星からのレーダーパルスにより衛星と地上との距離の変化を測定し、海抜がいかに変化したかを調査した。すると、中国都市部の土地の約45%が年間3ミリ以上の速さで沈下しており、そのうち16%は、なんと年間10ミリ以上の速さで沈んでいることが分かったというのだ。
「しかも、中国最大の都市、上海は過去100年で3メートルも沈下し、いまだに沈み続けていて、北京や天津といった都市も同じ傾向にあるというんです。つまり、このままの状態で沈み続ければ、中国の主要都市の約半数は水没し、何百万人もの住民が大洪水で命を失う可能性があるということです」(中国の事情に詳しいジャーナリスト)
地盤沈下が止まらない要因はさまざまあるが、地質学や気候適応学の専門家によれば、最も大きな原因とされるのが地下水の採取ではないかとされている。
「周知のとおり、中国ではここ数十年、相次ぐ建設ラッシュで都市部に超高層ビルが乱立しました。調査結果によれば、地盤沈下が観測された地点は、大半で地下水の水位低下が見られたという。つまり、ビル建設により飲料水や工業用水として過剰な地下水を汲み上げたことで地盤が柔らかくなり、それに都市自体の重量が加わって土壌が圧縮。地盤そのものが下がってしまい、それが今もなおも続いているということなんです」(同)
サイエンス誌によれば、中国の6700万人が住むエリアで、毎年10ミリ以上沈下が観測され、中国の人口の29%にあたる2億7000万人が居住する都市部の半数近くで、年間3ミリ以上の沈下が確認されているという。
「この事態を受け、中国政府もここ数年は地下水の汲み上げを規制する法律を施行するなど対策に本腰を入れはじめていますが、地盤沈下はビルの倒壊だけにとどまらず、交通機関や道路などインフラの破壊に直結することは言うまでもない。住宅バブルのツケがまわってきたという声もありますが、実際に数億人が暮らす街が大雨で水没する危険にさらされているわけですからね。もはや一刻の猶予もないということです」(同)
中国メディアの報道によれば、海抜4メートル程度の上海など、長江デルタ地帯に建つ都市は、地球温暖化による海水面の上昇も重なると2050年には水没するとの予測データもあるという。夏の豪雨が、沈みゆく都市部の危機を露呈させそうだ。
(灯倫太郎)