5月の下旬に10年ものの国債の金利が1%になったと報道された。日銀が3月に10年ものの金利をコントロールすることをやめ、原則として市場に任せ、5月13日には国債買い入れを減額した。いよいよ金融引き締めの第2弾が動き出したわけだが、それから10日もしないうちに金利はジワリと上がり、長期金利が1%を超えたのは11年ぶりだそうだ。
「何だそれ。金利うんぬんなんて、どうでもいいじゃないか!」と思う人も多いだろう。しかし、ゼロ金利の世界から金利がある経済に変わると、私たちの生活に色々と影響する。
まず、日本の個人は合計すると何と1000兆円も銀行預金に預けている。それがこの20年余り、ほぼゼロ金利として扱われてきた。30年以上前の「金利年5%」時代を知っている人からすると、あまりにも異常、さらに、その異常があまりにも長く続いた。
最近、地方銀行などの中堅の金融機関から、この夏の定期預金には1年で0.5%、3年なら0.7%といった商品も出てきた。また、少しずつではあるものの、これから金利は上がっていくだろう。
もちろん、中小の金融機関でも、定期預金は預金保険機構の対象商品なので、1人あたり1金融機関、1000万円までの元本と利息が保証されるので安心して預けられる。
もしも私たちの預ける銀行預金にも年1%の金利がつくようになると、日本の個人に年8兆円の不労所得が入るため、「おいしい物でも食べようか」「こんなものを買おう」と、内需を動かすお金にも使われるのが通例だ。それだけではない。財政赤字に悩む行政にとっても、約20%の税金1.6兆円が入ってくる。
さらに、債券で運用している部分はマイナスに働くが、少なくとも金利が上がっていくことは、私たちの老後を支える年金運用にもプラスに働く。生命保険会社にとってみても有利に運用できて、そこから利益も出やすくなるので、それらは配当金にも使われる。
「貯金なんてない。金利がついても関係ない」という方でも、このように生命保険や年金資金の運用からプラスに働くものなのだ。
企業の経営にとってみると、日本企業には有利子負債が280兆円ほどある。今まではほとんど金利なしで借りられていたけど、これから金利を払わなくてはならないので大変だ。しかし、企業の多くはこの20年、儲かっても従業員に回すことも設備投資に使うこともしないでひたすら内部留保を増やしてきた。そのお金は今や1000兆円ほどあるとも言われており、無借金経営の会社も少なくない。内部留保には利息がつくようにもなるため、企業経営全体でみれば、多少の金利上昇なら大きな影響はないと考える。
もちろん、運転資金や機械を買う資金を借りている会社にとっては大変だ。もしも、お金を借りる必要があるのなら、できるだけ長期で低利の資金調達を心がける方がいいだろう。
それは住宅ローンでも同じだ。この20年余りは変動金利で借りることが当たり前だった。変動といっても金利が上がることはほとんどなかったから、それでよかった。しかし今後は変わる。今のところ変動金利に影響を与える短期金利はあまり上がっていないけど、それは時間の問題である。
これから住宅ローンを長い、固定のものに借り換える人も出てくるだろう。ただし、あまり慌てる必要はない。よほどのインフレでも起こらないかぎり、一気に駆け上がるのではなく、ジワリ、ジワリと上がっていくだけだ。
ただし、その早い段階で賢く動くかどうかで、返済金額が大きく変わってくるから注意が必要だ。
金利上昇は日本経済を一変させる。それは決して悪い変化ではなく、正常化ですらある。その変化が自分にどう関係するかを見極めて、どう動くのか。早めに考えておくことが大切だ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。新刊「つみたてよりも個別株! 新NISA この10銘柄を買いなさい!」(扶桑社)が発売中。