北朝鮮と韓国との断絶が、いよいよ後戻りできない水準にまで達したようだ。4月29日、北朝鮮が韓国へ繋がるすべての道路に地雷を埋設していたことが明らかになった。
韓国軍によれば、北朝鮮は南北関係の悪化が加速した昨年11月、「9.19南北軍事合意」(2018年に韓国との緊張緩和のために締結した軍事合意)の破棄を一方的に宣言。その後、北朝鮮は軍事合意に基づき撤去した非武装地帯(DMZ)内の監視哨所を復活させ、昨年12月には南北を繋ぐすべての陸路に地雷を敷設したという。北朝鮮ウオッチャーが説明する。
「北朝鮮が昨年末から今年1月にかけて地雷を埋めたのは、韓国北部、江原道鉄原郡にある『矢じり高地』付近のDMZ内の道路及び、京義線道路、東海線道路。加えて、北朝鮮側は京義線・東海線道路の照明灯も撤去したようです。京義線・東海線道路は南北軍事合意の際、朝鮮戦争戦死者の共同遺骨発掘を目的に造成されたもので、工事の際には軍事境界線を挟み、両国の軍人が握手する写真が公開されるなど柔和なムードが流れた。しかし、わずか6年で南北間を繋ぐ3つの道路すべてに地雷が埋設されたことで、物理的にも両国間の断絶がより明確になりました」
今年1月の最高人民会議で「北南交流協力の象徴としての存在を物理的に完全に断ち、境界地域のあらゆる北南連携条件を徹底して分離させるための措置を厳格に実施する」と明言していた金正恩総書記。まさにそれが有言実行されたことになるわけだ。
「正恩氏が当時、韓国大統領だった文在寅氏と会談し、朝鮮半島の完全な非核化を確認した板門店宣言を発表してから4月27日でちょうど6年。あえて、このタイミングを選んでの地雷埋設に、『交戦国の関係』と位置付ける正恩氏の強い意志を感じざるを得ませんね」(同)
一方、韓国の情報筋によれば、今回の地雷埋設は北朝鮮国民に向けたメッセージという意味あいもあり、韓国と物理的かつ精神的に「断絶」させることによって国家への忠誠心をより強化したいという狙いがある、とも見られている。
「正恩氏が最も恐れているのは、韓国から開かれた文化や情報が入ってくることで、自身の身分が脅かされることにある。国交樹立となれば、国民は間違いなく韓国文化に迎合するでしょう。そうなれば、金王朝存続の危機になることは言うまでもない。もはや韓国は経済支援を期待する相手でもないため、政権維持のためには韓国との断絶をアピールし、国民から『統一』という希望を奪い去ることが一番手っ取り早いのです。いずれにせよ、北朝鮮国民にとって、この断絶が悲しい選択となることは間違いありませんね」(同)
自身の権威のためだけに、国民の夢さえも奪おうとしている独裁者。はたして国民の思いは…。
(灯倫太郎)