第1次世界大戦の最中、放置されたごみや、腐敗したまま山積みにされた遺体により、「塹壕ネズミ」が猛繁殖し、戦場の兵士たちを苦しめたということがあったが、現在、ロシアとウクライナとの最前線でも、全く同じことが起こっているという。
ウクライナ国防省情報総局(GUR)が、ハルキウ州クピャンスク周辺で戦闘を続けるロシア軍の兵士の間で「ネズミ熱」が流行していると伝えたのは、昨年12月のこと。ネズミ熱とは、ネズミの糞の粉塵を吸ったり、汚染された食べ物を口にすることで感染するが、感染すると発熱や発疹、嘔吐、さらには目から出血したり、ひどくなると腎機能不全になることもあるという。ロシアウォッチャーが解説する。
「GURによれば、ロシア兵の中に症状を訴える者が急増しているものの、ロシア軍司令部は、戦闘任務回避のための口実とみなし、訴えを無視し続けていたとか。ところが、戦場でのネズミによる被害が次々にSNSにアップされると、軍は一転、捕獲用のわなや殺鼠剤などを前線部隊に届けるよう動いたといいます」
おそらく、GURとしては2年近い戦闘の中で、ロシア軍兵士がいかに劣悪な環境に置かれていたかをアピールしたかったのだろう。だが、戦場の過酷な環境に置かれるのはウクライナ兵とて同じだ。その証拠にウクライナ兵によってSNSにアップされた映像にも、ベッドの下、リュックの中、コートのポケットなど、ありとあらゆる場所で蠢くネズミが映っており、迫撃砲の砲塔から大量のネズミが噴き出してくるおぞましい場面もあった。
「ネズミは“ねずみ算式”というくらい繁殖力が強く、あっと言う間に1000匹、2000匹とその数が増えていきます。しかも、どこにでも潜り込み、何でもかじり尽くす。電子機器の配線がネズミによってかじられ通信に支障が出たり、戦車の内部に入り込んで電気配線をかじられ、戦車が動かなくなってしまったというケースもある。感染症の懸念だけでなく、ネズミが戦闘の大きな足かせになっているのです」(同)
現在、ウクライナ軍ではネズミを捕獲するため、戦場に大量の猫を投入。ネズミ捕獲の活躍が認められ、賞を授けられた「ネコ戦士」なる写真がSNSにアップされ話題になっているが、
「とはいえ、いかに猫を投入したところで焼け石に水です。というのも、ウクライナでは長引く戦闘で農地が荒らされたことでネズミの餌が激減。さらに、寒さと雨風がしのげて食料のある壕など、ネズミの格好の棲み処となる。大量に押し寄せ驚くほど速く繁殖するので、とても猫を入れて駆除できる数ではないのです。つまり、今の状況が広がれば、兵士や武器不足に加えて、戦争継続の大きな足かせの一つになる可能性すらあるということです」(同)
ネズミの繁殖が、戦争終結のきっかけになるかどうかはわからないが、前線兵士たちの戦意は、このネズミたちによって喪失していることだけは間違いないようだ。
(灯倫太郎)
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