2022年11月、ウクライナのテレグラムサイト「NMTE」に投稿された1枚の写真。そこにはロシア軍が使用している軍事車両が写されていたのだが、その車両というのが、かつて日本の自衛隊が使用していた「高機動車」であるという疑惑が浮上して、国会でも取り上げられるなど大騒動となったことは記憶に新しい。
「今年3月の衆院外務委員会でも、自身も予備自衛官の経験がある国民民主党の議員がこの高機動車疑惑を指摘したのですが、車両を管理する防衛装備庁は『自衛隊で使われている高機動車に外観は似ているが確実な証拠がない』と、これを否定。その後も調査結果は明らかにされていません。ただ、以前から、自衛隊が廃棄した装備品などがタイやフィリピンなどを経由して海外に転売されているという噂はありました。仮にそれがウクライナを攻撃するロシア軍の軍事車両として使われているとしたら、大問題だと言わざるを得ません」(全国紙政治部記者)
高機動車とは、トヨタが製造する最大10人乗りの汎用4輪駆動車で、1990年代前半から普通科連隊を中心に配備が始まり、現在も陸上自衛隊に配備されている軍用車だ。
「高機動車本来の目的は、人員輸送やトレーラーの牽引ですが、荷台部分には各種ミサイル搭載も可能で、移動式発射台としても使用でき、レーダー装置も搭載しています。転売されたと言われている車両は、自衛隊で使用済みとなったものだと思われますが、使用済み車両の民間への払い下げは禁止されており、使用済み車両は再利用できないよう、原型を留めないまでに破砕、溶解させ、鉄くずとして処理するという厳しい規則があります。にもかかわらず、それが海外に出回っている可能性があるんです」(軍事ジャーナリスト)
陸自では、転売や再利用防止のため、2018年と2022年に関連規則を改正している。しかし、高機動車などは、戦闘に特化した戦車などに比べ、解体処理の実態はそれほど厳しくはないとも言われている。
「むろん、解体については、陸自の定めた仕様書にある、解体・処分要領に従うよう義務付けられています。ですが、実際には書類さえ整っていれば問題なしとされる、という話も聞こえてきます。そのため、悪質な業者は、提出が義務付けられている破砕溶解後の写真を他車と使い回ししたり、いったんバラバラにしたパーツを輸出し、海外で新たに組み立て直して再利用するという話もあるほどです」(前出・ジャーナリスト)
数年前には陸自の「軽装甲機動車」に酷似した4輪装甲車が北朝鮮の軍事パレードで目撃され、話題になったこともある。
参議院決算委員会で質疑に立った浜田靖一防衛大臣は、「請負業者の破砕現場に防衛省の職員が立ち会うなど細部要領を検討している」と答弁したが、防衛省や防衛装備庁は、二重三重のチェックで海外流出を防止するべきだろう。
(灯倫太郎)