これも、ウクライナ軍による反転攻勢の布石なのだろうか。
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で22日、激しい戦闘があり、同州のグラトコフ知事が「ウクライナ軍が領内に侵入し、少なくとも6人が負傷、3軒の住宅と行政庁舎が損害を受けた」と発表した。
ロシアによる侵攻以来、ウクライナ側からの国境を越えた装甲車や軍用車両などでの攻撃は初めてとあって、いよいよ反転攻勢の狼煙があがったのでは、と両国間に最大限の緊張が走っている。
ロシア国防省は翌23日、侵入してきた兵士らを「軍の空爆や砲撃により撃破し、テロリスト70人以上を殺害した」と発表したが、独立系メディアによれば、ロシア軍は軍事車両60台と兵士4200人を投入。現在もなお掃討作戦が継続していると報じている。
「今回、攻撃を行ったと主張しているのは『自由ロシア軍団』を名乗る、“打倒プーチン”を掲げてウクライナを支持するロシア人部隊です。結成は2022年3月とされ、主にロシア軍からの離反者で構成されており、昨年のドンバスでの戦いの際にもウクライナ軍と共闘。加えてロシア国内でも、破壊工作活動を組織していると伝えられます。今年3月にはロシア最高裁から『テロ組織』に指定されたとの情報もありました」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
今回のベルゴロド州への攻撃について彼らは、『今の独裁的なロシアは平和を訴えるだけで、子供が親から引き離され、10代の若者が終身刑になる。クレムリンの独裁を終わらせる時がきた。ロシアは自由になる』との声明を発表。自らを「ウクライナ軍の部隊だ」と主張しているが、
「むろんウクライナ側としては正規軍ではないため、“ロシア人の独立勢力が起こしたもの”として、攻撃への関与は否定しています。ただSNSに投稿された戦闘場面とされる動画には、米軍が昨年、ウクライナ軍に供与した対地雷装甲車らしき車両が確認できますから、何らかの形でウクライナ軍が関与していることは間違いないでしょう」(同)
しかも今回、自由ロシア軍団が侵入したとみられる西部ベルゴロド州の国境地帯は、ロシア軍の迫撃砲チームなどの攻撃拠点がある。同軍団があえてそこを狙って攻撃を仕掛けた背景には、軍団の存在をウクライナ国内で高めたいという思惑も見え隠れする。
「いずれにせよ今回の攻撃により、多くのロシア国民が、外側からではなく自国民からもいつ攻撃を受けるかわからないといった心理的不安に陥ったことは間違いないでしょう。現段階ではウクライナ軍の指示があったかどうかはわかりませんが、ウクライナにとっては大きな意味を持つ攻撃だったといえるでしょうね」(同)
ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団に対し「ロシア軍はウクライナの妨害工作、偵察集団をロシア連邦領内から駆逐する。このような行為を防ぐために特別軍事作戦が進行中なのだ」と強調したが、その表情はいつになく険しかったという。
(灯倫太郎)