犯罪ジャーナリスト小川泰平が斬る「全国のいじめ件数は犯罪認知件数より多い。隠ぺいする学校は許せん!」

 初めまして。元・刑事で、犯罪ジャーナリストの小川泰平です。私は1980年に神奈川県川崎警察署に赴任し、1年間の交番勤務の後、関東管区機動隊、所轄の留置場勤務を経て、念願だった刑事に着任しました。約30年間勤めて警察を退職後、現在は犯罪ジャーナリストとして講演活動のほか日々、事件を追って全国を飛び回り、TVなどで事件の解説をさせていただいております。

 高校卒業後に、警察官になると決めた際、受けた採用試験は「警視庁」「神奈川県警」と、地元の「愛媛県警」の3つでした。合格したのは、警視庁と神奈川県警。父を含め、周囲には警視庁を勧められる中、神奈川県警を選択したのは、神奈川県には美しい山、海、川や温泉、お城があるからです。地元の愛媛県松山市と似ている上にハイカラな印象でしたから。

 ところが配属されたのは川崎警察署。当時の川崎署は無法地帯。管内に暴力団事務所が28カ所ほどあり、暴走族が300台単位で走る。川崎球場、競輪場、競馬場のほか、特殊浴場が100軒以上あるところでした。昔はネットなどなくて、警察のパンフレットを見て決めたのですが、川崎については書かれていなかったような気がします。ガタガタ言いたかったですが、後の祭りでした。

 そして川崎警察署に赴任して間もなく、ある事件に遭遇しました。朝8時半頃、110番通報があったのです。「京浜急行の八丁畷駅前で日本刀を振り回して暴れている男がいる」と。

 1人で現場に駆けつけると、上半身を脱いだ入れ墨だらけの男が暴れていました。日本刀は全長1メートルほど。当時の警棒は木製で60センチ。これではかなわないと思い、拳銃の使用も考えましたが、男の周囲に40、50人のやじ馬がいたため、危険と判断しました。そこで私は、たまたま目の前のパチンコ屋に立てかけてあった〝竹ぼうき〟を借りて応戦することにしたんです。

 日本刀vs竹ぼうき。必ず勝てると思いました。竹ぼうきの長さは160センチぐらいありますから。相手に向かってブンブン振り回し、穂先が顔面をとらえた瞬間、プロレスのような技をかけて確保することができました。案の定、男は薬物の常習者でした。

 後日、署長室に呼ばれたところ─。署長、副署長、課長もいたので「表彰されるな」と浮かれていたら、署長にこう忠告されたんです。

「小川くんは刑事を目指しているよな? 今回のような逮捕方法を実行していたら、刑事になる前に死ぬぞ」

 誉められると思っていたのに残念でしたね(笑)。若い頃だし、あの時代だからこそできた逮捕の話です。

 さて、今回はまず〝いじめ〟の問題について、ガタガタ言っておきたい。

 2021年のいじめの認知件数は、全国の小中高、特別支援学校で61万5351件。1日平均1685件の計算になります。うち自死者は368人(なお、厚労省によると、昨年の小中高生の自死者数は514人と過去最多)。ですが文科省の発表で、自殺者のうち、いじめが原因とされたのはたった6人だけなんです。これ、大問題ですよ。しかも発表は大々的ではなく、こっそりと行われています。

「旭川女子中学生いじめ凍死事件(以下、旭川事件)」は現在も調査が進められており、複数人によるいじめが原因とされています。しかし、最初に発足した第三者委員会は「いじめと自死の因果関係は不明だ」と認めなかった。第三者委員会の調査では不明な点が多く、私としてはずさんな調査だと思っています。現在は今津寛介市長直轄の、〝尾木ママ〟こと尾木直樹先生を委員長とする再調査委員会により、調査が進められています。

 いじめがあった時の市長だった西川将人氏は市長を途中で辞職し、衆議院選挙に北海道6区から出馬しましたが、この際に旭川事件には言及しておらず、私はいまだに憤りを感じています。

 考えに考え抜いたのか、突発的なのかは人によると思いますが、子供のほとんどは遺書を残さないんです。現に旭川事件も残していない。だから、原因究明までに時間がかかるのでしょう。もちろん理由は複合的だとは思いますが、小中学生は人間関係に悩み、自死を選ぶ子が多いと私はにらんでいます。近年は教師が小学生をいじめるとか、いじめる側に加担する事件も増えましたし。

 だけど学校側は生徒同士のいじめに薄々気づいていても、最初は絶対に認めない。それは校長や教頭が天下り先を考えているからでしょう。責任を問われて国家賠償を請求される可能性があるからです。いじめがあると、加害者側のLINEまで隠ぺいするケースもある。学校側の隠ぺい方法は本当にずるい。許せん!

 私は頻繁に「いじめは犯罪だ!」と伝えています。2021年のいじめの認知件数は61万件超え、日本の全国で起きた刑法犯の認知件数(2021年度56万8104件)より多いんです。もしも「いじめは犯罪だ」とすべて事件化したら、認知件数は2倍以上になってしまうでしょうね。毎日1600件以上といういじめが起きている事実が明らかになるはずです。

 選挙中の演説で国会議員は「子供は国の宝」などと声高に宣言しながら、いざ当選すると何も実行しない。議員という立場にあぐらをかいて、あの演説は口だけだったのかと何度悔しく感じたことか。

 たとえ、いじめを撲滅することは無理でも、いじめによって自殺する子供を我々大人が守る必要がある。そう、切に願うばかりです。

小川泰平(おがわ・たいへい)1961年11月1日生まれ、愛媛県出身。犯罪ジャーナリスト。第一線の刑事として主に被疑者の取り調べを担当。30年間奉職し、2009年退官。現在、YouTubeチャンネル「小川泰平の事件考察室」を更新中。

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