犯罪ジャーナリスト小川泰平が警告!「ドバイが犯罪者天国に。逃亡犯罪人引き渡し締結国を増やすべき」

 今週は、「逃亡犯罪人引き渡し法」と「国際指名手配」について、ガタガタ言わせていただきましょう。

 私は現在、犯罪ジャーナリストとして活動しておりますが、元々、神奈川県警の警察官として、約30年間の勤務をしておりました。

 神奈川県警の「国際捜査課」に在籍していた当時は、よく韓国などへ出張し、韓国の警察庁と〝国際共助〟という名の下に、一緒に捜査を行っていたんです。韓国で偽造された在籍証明書や、国際免許証、卒業証明書などを使用して日本にやってくる犯人を摘発していました。日本の大久保にも偽造工場がありましたね。逆に、私が韓国の警察庁に赴き、日本警察の要請で韓国警察に逮捕してもらい、取り調べに立ち会ったこともありました。その際に痛感したのは、「〝国際共助国〟をもっと増やした方がいい」ということでした。

〝国際共助〟というのは、国境を越えて捜査を連携して行うこと。日本は、韓国をはじめ、米国や中国、香港、EU、ロシアと〝国際共助〟を締結していましたが、犯罪が年々複雑になっており、かかわる国も、より多岐にわたるようになっていました。そこで、「さらなる国々との締結が必要だ」と実感したわけです。

「逃亡犯罪人引き渡し法」という法律があります。日本在住者が犯罪者となり、海外逃亡すると、日本の警察が、逃亡した国の警察に引き渡し請求を行うものですが、これも〝締結国〟を増やした方がいい法整備のひとつなんです。

 なぜなら、日本が締結しているのは〝アメリカと韓国のたった2カ国だけ〟だからです。この「引き渡し条約」をアメリカは69カ国と、韓国は25カ国と締結しています。なぜ日本だけ少ないのか?

 その理由は、「日本には極刑、つまり死刑制度があるから」というのが、建前上は、その理由とされています。死刑を認めていない海外の多くの国にとっては、もし日本に逃亡犯を渡してしまったら、日本の法律で死刑にされてしまう可能性がある。そのため、多くの国が日本とは「引き渡し条約」を締結しないという理屈です。しかし、実際は、全米50州のうち、連邦政府と24州で死刑が存続しているんです。

 日本の「引き渡し条約」締結国が極端に少ないのは政治家の外交上の怠惰に原因があると私は思っています。諸外国の大臣クラスから、日本の大臣は相手にされないわけです。日本は政治家がコロコロ変わるでしょう。トップである総理大臣を含め、外交政策の立案を補佐する外務大臣も、国務大臣である法務大臣も。もっと長期的に外交努力をしていかないと、国際的な影響力が増大しないのではないでしょうか。

 だから、日本の犯罪者は、「逃亡犯罪人引き渡し法」の及ばないフィリピンやタイへ逃亡するわけです。近年は、ドバイへの逃亡者も増えています。ドバイへの逃亡が増加したのは、ドバイが犯罪者天国だからです。多額の財産さえ所持していればウェルカムで、ビザが発給されるんです。逃亡した犯罪者としては「有罪になったわけでも、起訴されたわけでもない」から、「推定無罪ですよね」とおそらく言いたいのでしょうが、れっきとした犯罪者。「逮捕すべきだ!」と私は言いたい。

 メディアでは、よく「国際指名手配」というワードが使われますが、「国際捜査課」の経験者である私にとって、この言葉、鼻クソみたいに意味をなしていません。

 テレビなどで見聞きする人が多いため、あえて私も今回、使わせていただきますが、制度上は、この言葉は実在せず、正確には「国際手配」と呼ばれています。そして、これは、9種類ある手配書のことを指しています。そのうちいくつかについて、簡単に説明しておくと、「赤手配書」と呼ばれる、〝引き渡しを目的として逃亡犯罪人の身柄の拘束を求めるもの〟や、「青手配書」と呼ばれる、〝逃亡犯の居場所に関する情報などを求めるもの〟、「緑手配書」と呼ばれる、〝常習的国際犯罪者に関する情報を通報し、各国警察に注意を促すもの〟などがあります。

 他にも、「黄手配書」「オレンジ手配書」「紫手配書」などがありますが、すべて、国際刑事警察機構(ICPO、いわゆるインターポール)が発行するものです。うち、私が「鼻クソだ」と断言するのが「赤」です。「赤手配書」は発行されても、現実には、身柄の拘束にまで至っていないのが実情だからです。

 例えば、カルロス・ゴ―ン。「ルノー・日産・三菱アライアンス」の社長兼最高経営責任者(CEO)を務め、金融商品取引法違反および特別背任の疑いで起訴されたのち、保釈中に国外逃亡して「赤手配書」を発行されましたが、いまだに逮捕されていません。レバノンへ逃亡した事実も把握できていますし、堂々と本人はメディアのインタビューにも応じているのにです。

 また、20代の若さで経営する電力企業を急成長させたものの横領事件に手を染めた上、執行猶予中にもかかわらず名前を偽造してシンガポールへ出国したAA容疑者も然り。パスポートの返納命令を出し、旅券法違反容疑で逮捕状を取りましたが、こちらも未解決のままです。

〝犯罪人引き渡しの原則〟はどこの国でも実施していることで、日本も例外ではありません。ですから、逃亡犯罪人引き渡し締結国を今後増やしていくには、「関係が良好なアメリカを通して、いろいろな国へアプローチしていくことから、まず始めればいいのでは」と私は考えます。政治家の皆さんには仕事をサボらず、取り組んでほしい!

小川泰平(おがわ・たいへい)1961年11月1日生まれ、愛媛県出身。犯罪ジャーナリスト。第一線の刑事として主に被疑者の取り調べを担当。30年間奉職し、退官。現在、YouTubeチャンネル「小川泰平の事件考察室」を更新中。

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