これは、嵐の前の静けさなのだろうか。
ウクライナのゼレンスキー大統領が4月26日、和平に向け「建設的な役割を果たしたい」と、仲介役を買って出る中国の習近平国家主席と電話会談を行った。しかし、中立的な立場をアピールするも、ロシアとの関係を深める中国に対し、米国など西側諸国の懸念は深まるばかりだ。
そんな中、米ニューヨーク・タイムズが米当局者からの情報として、ウクライナが5月にもロシアに対する大規模反攻を行う準備を進めていると伝えた。また、米ワシントン・ポスト紙も、戦闘にはウクライナ内務省系の軍事組織「アゾフ連隊」が投入されると報じ、関係各国に新たな緊張が走っている。
「ウクライナによる5月の大規模反攻計画は、流出した米機密文書に記されていたものですが、それによれば開始日は『4月30日』。当初ウクライナ国防省は、2月24日に首都モスクワや黒海に面する港湾都市・ノボロシースクなどに大規模攻撃を計画していたものの、ロシア側からの報復を懸念した米国が中止を要請。結局ウクライナ側が折れる形で計画を延期したとされています」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
「アゾフ連隊」といえば、激戦地となったドネツク州南部マリウポリで製鉄所構内に立てこもり、昨年5月に制圧される最後の最後までロシア軍と徹底抗戦したことが記憶に新しい。
「アゾフはもともとウクライナのハルキウ市にあるサッカーチームの応援団で、フーリガンとして悪評の高い組織でしたが、その後、ロシア系住民の武装テロリストと戦うなど自警団として行動。その功績が認められ、ウクライナ正規軍に統合されたという、いわくつきの組織です。ウクライナ政府は今回の大規模反攻で、ロシアが実効支配する地域に『攻撃用部隊』としてアゾフ連隊を投入。新たに6500人の戦闘員も採用したとのこと」(同)
不足していた兵器も、ドイツ製戦車「レオパルト2」計80両以上の配備を予定。すでにドイツやポーランドなどから40両以上がウクライナに供与されているという。
ここへきて、ウクライナが大攻勢に出るのはなぜなのか。
「先日、ロシアの民間軍事組織『ワグネル』を率いるプリゴジン氏が、ロシア軍の戦力低下により東部ドネツク州全地域制圧という目標は現実的ではないとして停戦を呼びかけました。ロシアはすでに兵士約37万人をこの戦争に投入しているといわれますが、兵士の士気は低いまま。そこに、欧米から戦車などの大型兵器が到着し、ウクライナ側としては一気に反撃する準備が整ったわけです。一方で、欧州の中には長期化するウクライナ支援疲れも見え始めている。停戦圧力が強まる可能性も出てきており、しかし現状で停戦すればロシアが一方的に併合した4州が固定化されかねない。それではウクライナとしては到底容認できませんから、今回の大規模反攻で一気にロシア軍を追い出して、自陣を大幅に回復したいという狙いがあるのではないでしょうか。ゼレンスキー大統領が習近平氏に会談を要請したのも、停戦仲介を見据えたものとみられます」(同)
さて、大規模反攻の決定的勝利で防衛ラインの大幅な回復はあるのか。いずれにせよ、この戦いがウクライナの今後を左右することは間違いなさそうだ。
(灯倫太郎)