日本シリーズが終わってから暇な夜が増えた。面白いテレビもあんまりやっていないし。侍ジャパンの練習試合はあったけど、見ていてもワクワクドキドキしなかった。日本代表のベンチではニヤニヤ笑っている選手もいるし、緊張感が伝わってこない。選手たちからするとシーズン終了後の難しい時期の試合で仕方ない面がある。でも、観戦する立場としては、1球1球しびれる展開やった日本シリーズと比べて落差が大きすぎた。
せめて相手チームにもっとギラギラしたものがあったらよかったんやけど。練習試合の相手となった巨人、日本ハムの若手投手は絶好のアピールチャンスやった。普段は対戦できない豪華メンバーとの対戦。ぶつけたらアカンという思いはあっても、もっとイキのいい投球を見たかった。
4番に座った村上は11月5日の日本ハム戦で1本、6日の巨人戦でも格の違いを見せる2本のホームラン。日本シリーズの時は力みがあったが、代表のユニホームでは貫禄を見せつけた。来年3月の本番でも4番当確の働きやった。
国を背負っての負けられない戦いやから、本番になれば面白くなるのは間違いない。メジャー組の大谷、ダルビッシュ、鈴木誠也らが参加すれば、ファンにとっては夢のようなメンバーやから。僕も村上と大谷が並ぶクリーンアップを見てみたい。栗山が代表の監督になったのは、日本ハムの監督時代に良好な関係を築いた大谷やダルビッシュに出場してほしいという思惑があるはずや。
でも、球界OBとして、軽々しく「出てほしい」とは言えない。大谷は日本球界とはケタが違う契約を結んでいるスーパースター。エンゼルスと結んだ1年契約の年俸は3000万ドル(約43億円)と報道されている。もし、WBCに出てケガでもしたら誰が責任を取るのか。ワンプレーで野球人生が終わることだってあるんやから。プロ野球選手は給料を稼いでナンボ。世界一という勲章のために日本代表として戦えというのは、少し違う気がする。将来、メジャー挑戦を考えているような選手はアピールの機会になるし、自分の持っている力を必死に見せたらいい。そう考えたら、第1回、2回大会で日本の連覇の立役者となったイチローはよく出てくれた。松井秀喜のように、所属球団からストップをかけられるほうが普通やと思う。いずれにしろ、大谷は出場してもDHだけで、二刀流は期待しないほうがいい。
チームとしては、大谷が出なくても十分に世界と戦えるメンバーがそろうと思う。山本由伸や佐々木朗希が本調子ならメジャーリーガーをねじ伏せることも可能。打線も村上を中心に楽しみな選手が多い。僕は野手に関してはクリーンアップよりむしろ1、2番をどう組むかに注目している。特に1番打者は初球からガツガツいくタイプより、後続に球筋を見せるためにも仕掛けを遅らせられるタイプのほうがいい。練習試合では阪神・近本、ヤクルト・塩見が1番に座ったが、両者ともに積極的にいきすぎるタイプやから悩ましい面がある。
機動力は使えなくても、FA宣言で争奪戦となっている近藤健介の1番起用も僕は面白いと思っている。ボールをしっかり見ていける打者で出塁率も高いから。栗山監督も近藤の特徴は熟知しているし、侍の1番を試す手はある。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。