ほんまにおかしなことを考えるもんやで。メジャーリーグが来季から新ルールの導入を発表した。試合時間短縮のために投球間の時間制限を走者なしで「15秒以内」、走者ありで「20秒以内」として、タイマーで計り、違反すれば1ボールになるという。それだけならまだしも、プレートを外すことも含めて、けん制の回数を2回までとし、3回目はアウトにしなければ、ボークになるという。よくこんなけったいなルールが通ったと驚くしかない。
けん制を2回までにしたところで一体、どれぐらい時間短縮になると想定しているのかな。最近の野球は中盤以降、投手を目まぐるしく代えて時間が長くなるから、それに比べると、けん制の数なんて気になったこともない。けん制の回数が5回ならまだしも、2回というのは少なすぎる。
走者からすると、3回目のけん制でセーフになって塁をただで進めることを狙ってくる。リードにも種類があって、実は盗塁を仕掛ける時のほうがリードが小さい選手が多い。そのほうがスタートに集中できるから。逆に投手を揺さぶるのが目的の大きなリードの時は、帰塁の意識のほうが高い。「2回まで」のルールが導入されると、この揺さぶり目的の大きなリードが増えると思う。投手は大きなリードを無視して、20秒以内に投げるのは精神的にきつい作業となる。
リスクを背負って2回目のけん制を入れる投手は少なくなるので、盗塁の数自体は当然増えてくる。ましてや、ホーム以外のベースの大きさも危険防止のために約7㌢ほど大きくなるという。その分、塁間もわずかながら短くなるし、タッチをかわすスペースもできる。今まで間一髪でアウトになっていたのがセーフになる確率が上がるんやから、これで盗塁が増えなウソやで。それにしても危険防止って‥‥アメフトのほうがよっぽど危ない。
もうひとつ、首をかしげる新ルールとして、大谷シフトのように塁間に3人守る極端なシフトも禁止になるという。打球方向のデータをどう生かすかは、そのチームの自由やと思うんやけどな。極端なシフトは日本でも「王シフト」など、昔からあった。確かに、全てデータ頼りで守備位置を決められると、選手個人の考える力がなくなってくる。新ルールのもとで、メジャーの選手の守備への意識がどう変わるのか注目やけど、シフト禁止はあまりに極端すぎるルールやで。
日本も今までの流れを見ると、これらのルールを導入することになるんやろうな。本塁での激突を避けるための「コリジョンルール」や、危険なスライディングの禁止、ビデオ判定、申告敬遠と、ことごとくMLBの新ルールを採用してきたから。もちろんWBCなど国際大会で適応するために仕方がない面もあるけど、何でもかんでもマネすればいいというものでない。
アメリカで行われている18歳以下の国際大会は7イニング制やし、近い将来、メジャーでもそうなるかもしれん。でも、そこはよく考えてほしい。野球は9回やからドラマがある。誰が決めたのか知らないけど、9イニング制というのは絶妙によくできている。7イニングになったら、ノーヒットノーランがしょっちゅう出たり、大きく野球が変わる。ほんまにファンは時間短縮を願っているんやろか。9イニング制は日本だけでも守ってほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。