4州併合と同時にウクライナ側に「即時停戦と交渉のテーブルに戻ることを強く求める」と要求したプーチンだが、ウクライナのゼレンスキー大統領(44)は「ロシアとの交渉の用意はあるが、別の大統領とだ」と、交渉を完全拒絶する構えを見せている。
「プーチンの本音は一刻も早く戦争を終わらせることです。そこで、停戦で優位に立てるように住民投票という形を取った。これ以上の打つ手となれば、核兵器使用か、原子力発電所を攻撃するしかなくなるのですが‥‥」(国際ジャーナリスト・山田敏弘氏)
窮地に立たされたロシア国内では、強硬派のチェチェン共和国カディロフ首長が「国境付近に戒厳令を敷き、小型の核兵器を使用すべきだ」と、核兵器使用を強弁する声を上げている。
「併合してロシアの一部となれば、今後、ウクライナが攻めてきた時に自衛権を行使するという名目で核を使うという論理が成り立つ。ただし東部地区で核兵器を使用すれば、偏西風の影響でロシア国内にも放射能が及ぶ恐れが心配されます」(山田氏)
現実的には核兵器使用は難しいと主張する。
一方、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう分析する。
「プーチンは『米国は核兵器で、広島と長崎を破壊した』などと核攻撃をチラつかせて脅している。しかし、はっきり使うと明言したわけではないので、核使用を心配するのはもっと先のことになる。危惧されるのは『4州併合』が核攻撃の名目とされることです。今後、併合した4州がいよいよ危機となったり、取り返されたりなどすれば、それを許すまじと核攻撃の口実に使う可能性があります。作戦がうまくいかなくなって引き下がるのではなく、むしろ反対に過激に出てくるのがプーチンなのです」
その恐るべきシナリオとはどんな戦術になるのか。
「もちろん、核攻撃は70年以上使われていないだけに戦術的なハードルは高い。ですが、使い方、使う場所、全てはプーチン一人が決めることになる。戦術的には戦場で敵に使うか、後方の海上でデモンストレーション、あるいは広島・長崎の時のように街の中心部に落とすという使い方もある。核の種類もさまざまで、小型の戦術核を何十発もいっぺんに連発させる方法もある」(黒井氏)
10月3日、英「タイムズ」紙はロシアで核兵器を管理する秘密部隊がウクライナに向けて動き出したという目撃情報により、国境付近で核実験を準備する動きが出ていることを伝えているのだが‥‥。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏が危惧する。
「今後のウクライナの進行しだいですが、小型の戦術核を使用する可能性は否定できません。使用する場所は拮抗した戦線など象徴的な場所になるでしょう。ただし、その際にはロシアは世界のどの国からも相手にされない国となる。さすがに中国も、住民投票による併合には距離を置いています。その論理がまかり通るのなら、台湾も中国から独立できることになってしまうからです」
いずれにせよ、核のボタンを押せば世界から「ならず者国家」の烙印を押されることは必至だ。狂気のプーチンはどの地平を見据えているのだろうか。
*週刊アサヒ芸能10月20日号掲載