ギャラと言えば、野球の解説者業のみで生計を立てるのは、すごく大変な時代になったこともボヤきたい。今、解説者で古株の中心と呼ばれているメンバーは周りには4人いる。大矢明彦(74)と谷沢健一(74)、平松政次(74)と俺。この4人が引退したのは1981年から1986年にかけてだけど、野球を辞めても解説者として食っていけた、いい時代を経験してるんだよね。
試合会場での解説を終えたら、当時は地上波放送で全盛期だったフジテレビの「プロ野球ニュース」にも出演していたから、ギャラがけっこうよかったんだよ。12球団のニュースをまんべんなく扱うことが「プロ野球ニュース」の条件だったから、解説者になれたら食いっぱぐれはなかった。
それが今じゃ、中継もニュースもケーブルテレビやCS放送、一部の動画配信サービス、そしてラジオだけ。ぶっちゃけると、地上波よりギャラが格段に安いんだよね。しかも現役の解説者は20人以上いて、CS中継番組への出演は月に一度ぐらいしか仕事が回ってこないのが現状。
われわれ70代は「古くさいからもう辞めろ」と言われてる世代だし、「70代で仕事があるだけいいじゃないか」なんて言われることもあるけど、いい時代を知ってるからこそ、今が切なくて憂いたくなる。ギャラが格安だと嘆くと、オファーをくれた人に失礼だし、呼ばれたら断らないのがわれわれのイヤらしいところだけど(笑)、解説は人生の張りでもある。「もういらない」と最後通牒を出されるまでは、粛々と仕事場へ顔を出すんだろうなあ‥‥。
比較的若い世代の解説者、松坂大輔や上原浩治、里崎智也や藤川球児、岩田稔なんかは、解説という仕事に対して優雅に構えてますよ。彼らの現役時代は野球バブルで、われわれの現役時代より年俸が10倍ぐらい上がっているから。よっぽど変なことに金を使っていない限り、唸るほど貯金を持ってるはず。だからギャラが安くても生活に支障をきたさないし、「人前に出られるから、まあいいか」と依頼を受けてるんだと思う。スタッフは解説者の若返りを図っているんだろうし、彼らのしゃべりはオモロいから、時代の流れを否定する気にはなれない。
もう1つ、なぜ地上波でメイン中継がなくなったかと考えると、要はゴールデンタイムに野球中継の視聴率は取れないことが原因! つまり、人気がなくなったということ‥‥。
ただねぇ、「王(貞治)選手や長嶋(茂雄)選手より高額を渡すわけにいかない」と、年俸を抑えられてきたわれわれ世代は、後期高齢者になっても働かなアカンのですよ。この記事を読んだテレビ局関係者は、試合とニュースを地上波に戻してほしい。頼んます!
江本孟紀(えもと・たけのり)野球解説者。1947年7月22日生まれ、高知県出身。「プロ野球ニュース」、「SWALLOWS BASEBALLL!VE」(フジテレビONE)、「ショウアップナイター」(ニッポン放送)他出演中。