江本孟紀が明かす野村克也の「遺言」(3)ONよりも野村克也が好き

 野村氏のプロ野球人生を振り返れば、国民的スターであった王貞治氏、長嶋茂雄氏との比較がいつも付いて回った。江本氏が見た、「ひまわりと月見草」の関係はいかなるものだったのか。

 前に何かの本でも書いたことがあるんですけど、プロ野球界の天才はある意味、育ちのいいスターと悪いスターに分かれるんですよ。南海ホークスの「4番キャッチャー野村」は、王さんや長嶋さんに匹敵する、もしかしたらそれ以上に偉大な選手だと僕は思っています。

 でも王さん、長嶋さんって、やっぱり悔しいけど、巨人で育ちのいいスターなんですよ。ノムさんや金田さんも誰もが認める大スターだけど、いかんせん育った球団がね(笑)。逆に言えば、王、長嶋という読売巨人軍のスターに対するコンプレックスが、育ちの悪いスターを生んできた、とも言えますけどね。

 選手時代も監督時代も、あれだけライバル視して舌戦を仕掛けていったノムさんですけど、僕が「でもね、実際のところ、長嶋ファンでしょ?」って聞くと、「そや」ってニヤッとするんです。決して表に出しませんでしたけど、「巨人のスーパースター」にあこがれがあったんですよ。

 くしくも、江本氏から名前が挙がった史上唯一の400勝投手・金田正一氏も、昨年10月に86歳で鬼籍に入っている。プロ野球史でもまれな大選手の訃報が相次いだ格好だ。

 ふと思うわけです。「王、長嶋はやっぱりスーパースターだな。野村はとうとう、死ぬまで勝てなかったな」ってね。悲しいかな、頑張ったけど上回ることがかなわなかった。結局、王さん、長嶋さんも、いろいろ病気をしたりもしてるけど、現に今まだ生きていて、先に逝ったノムさんや金田さんを送り出しているわけですから。

 ただ、もちろんONにはわれわれもあこがれましたけど、どっちが好きかと聞かれたら、答えは絶対に「育ちの悪い天才」である野村、金田ですよ。つきあっていると「ええっ!?」というところも多い。でもそういう人のほうがおもしろいじゃないですか。強烈でしょ、ノムさんも金田さんも。あそこまでいけば大したもんですよ。

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