世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「立浪監督は昭和すぎるかもしれん」

 中日の交流戦直前のコーチ人事には驚いた。中村紀洋打撃コーチが2軍降格となり、波留敏夫2軍打撃コーチが昇格した。「何があったんや」と気になって新聞を読んだが、立浪監督のコメントは「内輪の話というか、ノリに問題があったわけでも何でもない」と歯切れが悪かった。新任コーチが開幕2カ月で降格となるのは異例なだけに、1軍から外したほうがいいと判断する、よほどのことがあったと思う。

 ノリはいいコーチになると思ってただけに残念や。現役時代から若手に的確なアドバイスをしていたし、ノリの出ているYouTubeを見ても、確かな打撃論を持っていた。大谷のような今風のアッパー気味のスイングではないけど、理にかなったレベルスイングを自分の言葉で教えることができるコーチやった。「俺が何とか一人前に育てたる」という強すぎる熱意があだになった可能性はある。選手によって合う合わないはあるから、押しつけになるのはよくない。

 立浪とノリの名球会コンビで、左打者と右打者をどう育てるのか楽しみにしていた。ただ、一朝一夕にいかないのが野球の難しさ。いい教えられ方をしても、誰もが3割打者になれるわけではない。教えるほうも、教えられるほうも根気が大事。若い選手はすぐに結果を欲しがるけど、本当に大事なことはすぐには身につかない。言われた通りに、練習して、練習して、ある日「これか!」と開眼する時がある。

 立浪やノリは自分が打てていただけに、若い選手の打撃に人一倍ふがいなさを感じると思う。「何であんな甘い球を空振りするんや」と腹が立っても、そこは我慢。例えば三振して帰ってきても「1球前のあのボール球。前なら振っていたのに、よくバットが止まった」などと進歩を認めてやることが大事。今の子は叱るだけでなく、褒めることも必要やと思う。

 立浪監督は入団時に鍛えられた星野仙一監督のスタイルを継承したいのかもしれない。攻守に精彩を欠いた正遊撃手の京田を「戦う顔をしていない」と試合途中に遠征先から名古屋に強制送還させたのも話題になった。元々ボーッとした顔のやつもおるし、顔で判断するのはどうかと思うけど、気持ちが伝わってこなかったんやろな。「負けている時に笑っている選手がいるのは考えられない」の発言などは、まさに星野イズム。でも一つ忘れてほしくないのは仙さんはムチだけでなくアメも上手に使ったということ。今の時代はもっとアメの部分を多く見せたほうがいいかもしれん。

 親にも強く叱られた経験のない若い選手は、あまり強く言いすぎると精神的にポキッと折れてしまう。立浪監督も昭和すぎてはダメ。昭和な部分を残してもいいけど、令和の指導法もミックスしてほしい。それと叱ってばかりでなはく、時折落とすカミナリのほうが効果がある。僕が阪急時代に鍛えてもらった西本監督がそんなタイプ。普段の細かいことはコーチに言わせておいて、大事なところで出てきてピリッとさせた。ユニホームを脱いだ時のスイッチの切り替え方もうまかった。

 立浪はミスタードラゴンズと称され、中日ファンが長い間、監督就任を待ち望んでいた男。チームには石川、根尾ら有望な若手も多い。アメとムチをうまく使い分けて、中日を再建してほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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