今回のウクライナ侵攻では圧倒的な火力を誇るロシア軍に対し、劣勢のはずのウクライナ軍の健闘ぶりが報じられている。専門家はどう分析しているのか。
「今回のウクライナ戦では対戦車ミサイル・ジャベリン、携帯式地対空ミサイル・スティンガーなどが大活躍した。つまり陸上兵力がいかに大事なのかがわかりました。しかし、自衛隊にはこうした対戦車兵器の装備がありません。もちろんウクライナは大陸国家、対して日本は島国ですから、単純には比較できないが、海空を重視し、戦車の数を削減してきた。その考え方を見直す必要がある」(潮氏)
ソ連崩壊以降、自衛隊は北方の脅威が消えたことで戦車の保有数を段階的に下げ、かつての1200両から半分以下になっているのが現状だ。
戦車戦に関して先の黒井氏はこう言い放つ。
「T─62というウクライナの戦車は60年代にソ連が造った年代物です。対して自衛隊が所持するのは10式と呼ばれる最先端の戦車です。もちろん自衛隊がロシアまで攻め込んでいく能力はありませんが、北海道に上陸したロシア軍を叩き潰す能力は十分にある」
ウクライナ軍のドローン戦術に注目したのは井上氏だ。
「キーウ周辺の陸上戦での対戦車攻撃などにトルコ製の攻撃型ドローン・バイラクタルTB2などが有効でした。また、ウクライナ軍はロシア黒海艦隊の『モスクワ』に巡航ミサイル・ネプチューン2発を命中させ、ロシアに一泡吹かせました。この撃沈にもドローンが使われた可能性が高い」
ロシア連邦の首都の名を冠した旗艦船の撃破は大きく報じられ、当初ロシア政府は火事と説明したが、その後沈没を認めている。
「モスクワの最大の特性はレーダー防空網に優れている点です。クリミア半島付近の港に停泊し、南部に防空網を巡らせていた。だが、あっけなくミサイル攻撃を受けてしまった。これは何らかの事情でレーダー網の持ち味を発揮できなかったと見られるのです。有力なのが数十機のドローンを飛ばし、そちらにレーダーが集中している間に、海面すれすれの位置からミサイルを受けて撃沈されてしまった。使用されたのはトルコ製のドローンと言われている」(井上氏)
防衛、攻撃との両面からドローンの果たした役割は大きい。やはり近代戦にはこうした無人ハイテク兵器は不可欠なのだ。
4月19日、日本政府は、ウクライナにドローンを提供することを発表している。
「政府が提供するドローンは、あくまで偵察用のもの。自衛隊には軍事用のドローンの装備がありません。また、ロシア海軍の主力は太平洋艦隊と北極海の北方艦隊が2大勢力で、自衛隊が直接対峙するのは太平洋艦隊になります。黒海艦隊の撃沈を見て、あの程度とタカをくくるのは早計です」(潮氏)
それでも、自衛隊には秘密兵器があるという。
「自衛隊が装備するのは12式地対艦誘導弾です。ウクライナのネプチューンを上回る性能を持っている。また、ファントムⅡからも対艦ミサイルを撃つこともでき、洋上のロシア戦艦を撃沈することができます」(井上氏)
うかつに日本の領海へ踏み込めばバルチック艦隊同様に海の藻屑となるのみか。
「ハイテク戦となっても自衛隊が上回ります。唯一心配なのが弾薬です。防衛費の削減により弾薬の絶対数が足りない。ウクライナの軍費はGDPの2.9%(日本は1.2%)。ロシアの脅威に備えてきたが、ミサイルなどの装備品をNATOから供与されている。ましてや絶対数の足りない日本は、ウクライナほどもたないのではないでしょうか」(井上氏)
21年度の日本の防衛費は6兆1160億円、政府自民党はGDP2%を超す予算拡大を公約としているのだが‥‥。
*「週刊アサヒ芸能」5月5・12日合併号より。【2】につづく