一部撤退としながら、相変わらずウクライナで大量虐殺を繰り返す、プーチン大統領。実は、そんな同氏の思想に多大な影響を与え、ロシア国内では「プーチンのラスプーチン」と呼ばれる超保守主義学者が存在する。それが、元モスクワ大学学部長のアレクサンドル・ドゥーギン氏(60)だというのだ。
このドゥーギン氏、実は極右地政学者であると同時に戦略家でもあり、ロシアではベストセラー「地政学の基礎」の著者としても知られる。
「先月22日、米ワシントン・ポスト紙がプーチンの思想基盤をテーマにした記事を掲載したのですが、それによればドゥーギン氏が書いた著書の内容と、プーチン大統領が実際に行ってきた外交安全保障、領土拡大に向けた長期戦略が、ことごとく符合しているというのです。ドゥーギン氏は、旧ソ連邦崩壊を『20世紀地政学上の最大の惨事』と位置づけ、ロシアの復活と勢力拡大を提唱。彼の戦略論は『新ユーラシアニズム』といわれ、目指すべき将来目標はズバリ、旧ソ連邦諸国を再びロシアが併合することにくわえ、さらにEU諸国もロシアの〝保護領〟にするというものなのです。プーチンは2000年の大統領就任以降、それをなぞるように『ロシア新保守主義』を打ち出し、クリミア併合に踏み切ったのもドゥーギン氏の従来からの主張を反映させたものだといわれています。東欧では『プーチンがドゥーギン氏に洗脳されている』とまで言い切る有識者が少なくないんです」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
さらにドゥーギン氏は、米国では人種的、宗教的、信条的分裂の拡大、英国ではスコットランド、ウェールズ、アイルランド間の亀裂、それ以外の欧州諸国はロシアの天然資源に依存することで、いずれ北大西洋条約機構(NATO)は内部崩壊すると説いている。
「ドゥーギン氏が描く世界構図は、ドイツがロシア産資源への依存度を高めるにつれ、欧州は分断され、またEU離脱後の英国経済がのっぴきならない状況に陥ることで、ロシアが優位に立ち『ユーラシア帝国』を築くというもの。一方、アジアについての“予言”も行っており、その一つが驚くことに日本との極東におけるパートナー作りというのです。というのもドゥーギン氏の理論によれば、ロシアのユーラシア戦略にとって中国の『一帯一路』構想は対立するものであり、中国はいずれ内部的混乱や分裂により没落しなければならない、とまで唱えています。そのためにも日本との関係が重要とのこと。ただ現実をみてみると、ロシアは現在、日本を非友好国に指定しており、日本政府も8日、ロシアに対して外交官の国外退去を決めたほか、ロシア最大手銀行の資産凍結の追加制裁を発動しています。つまり、この展開はドゥーギン氏の理論から外れているわけですが、いずれにせよ同氏の危険思想がプーチンの思考に影響を与えているとすれば、領土拡大のための残虐行為はまだまだ続くことが予想されるのです」(同)
無辜の命を平気で奪う危険思想家が、権力の座にとどまることはあってはならない。
(灯倫太郎)