AI養殖に乗り出した「くら寿司」が“回転すし界のユニクロ”を目指して始動

 ネタは江戸前ではなく自前。くら寿司は11月1日に新会社「KURAおさかなファーム」を立ち上げ、魚の養殖事業に乗り出した。

 例えばこのところさんまの不漁が例年伝えられるなど、日本の漁業環境は厳しい現実に置かれている。かつては世界一の水産大国だったものが、2011年に470万トン台あった生産量が10年後の20年には410万トン台まで減少。その間、漁業人口も20万人以上いたのが13万人まで減って人手不足も深刻化している。とあっては安い値段で商品を提供する回転すしにとって死活問題となりかねない。「じゃあ、生産も自分でやってしまえ」ということで養殖に乗り出すのだという。

「一方で海外では日本のヘルシーな食事に倣った鮮魚ブームで魚の値段が年々上がって、安定した値段と量の供給は課題であると同時に商機でもあります。加えて持続可能な漁業の確立のため、同社では人手のかからないようAIやIoTを活用した『スマート漁業』に取り組むといいます。厳しい漁業環境をどうにかしないといけないと、国が昨年12月に養殖分野への参入の規制緩和を行ったために実現できたことです」(経済ジャーナリスト)

 同社では海外輸出も視野に入れた自社養殖と委託養殖、スーパーなどでの販売も考慮に入れた卸売も行う予定で、くら寿司が飲食以外の会社を立ち上げるのは初のことだという。

 くら寿司では既に20年から地方の水産加工業者と協力して養殖事業に乗り出していて、国際的な食の安全の認証を受けた「オーガニックはまち」の提供を行ってきた経緯がある。その背景には上記のような漁業環境の改善とすしの安定供給が理由としてあるわけだが、その先にあるのは生産から販売までを同社内で完結させることで、最終的な目標はずばり「回転すし界のユニクロ」になることだ。

「ユニクロは自社で生産から販売を行っていることで有名ですが、このビジネスモデルをSPA方式(製造小売)といいます。取り入れている企業としては、そのユニクロのほかZARAやGAPなどが有名です。なぜならファストファッションは流行や季節のニーズですぐさま商品を切り替える必要があるので、自社内で一連の工程を完結させる必要があるからです。ファストファッション以外では、JINSやカインズホーム、ニトリ、ファンケルといった企業がとりいれています」(前出・ジャーナリスト)

 いずれの企業も業界で優位性を保つ企業ばかり。回転すし業界ではスシローと熾烈な首位争いを繰り広げているくら寿司だが、SPA方式が大きな武器となるか。

(猫間滋)

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