横綱白鵬にとって、いよいよ、待ったなしの瞬間がそこまで迫ってきている。
「気持ちが切れてしまった。今は何かから解放された気持ちです」大相撲からの引退を表明していた横綱鶴竜がオンライン会見で、現在の心境を語ったのは25日のこと。鶴竜は約20年に渡り現役力士として活躍。だが、ここ数年は腰痛に苦しみ、再起を期した今場所も直前の左脚けがにより、5場所連続の休場を余儀なくされていた。
スポーツ新聞の相撲担当記者が語る。
「実は鶴竜本人はそれでも現役続行の意思を見せていたんですが、横綱審議委員会が昨年の11月場所後、休場の目立つ鶴竜と白鵬について『注意』を申し渡した。これは強制力はないものの、『引退勧告』に次ぐ重いもので、協会として『覚悟』を求める意味合いが強い。本人は5月場所で進退をかけると考えたようですが、このままいけば春場所後に『引退勧告』がなされる可能性が大きく、ならばと、潔く身を引く決意を固めたようです」
唯一残った横綱は、同じモンゴル出身の白鵬だけとなったわけだが、「なんのことはない、白鵬も首の皮一枚でつながっているような状態」と語るのが、前出の記者だ。
「白鵬は3月場所で初日から2連勝するも、右膝の状態が思わしくなく、3日目から休場。協会に提出した診断書には『右膝蓋大腿関節軟骨損傷、関節水腫で手術加療を要する。術後、約2カ月のリハビリテーション加療を要する見込み』とあり、今月中に手術を行い、7月場所で進退を懸けるとしていますが、白鵬の右膝がもう限界なのは素人目にもわかりますからね。そこにいまさらメスを入れたところで、全盛期の力が蘇ることはないでしょう。しかも、既に日本国籍も取得し、現時津風親方(元前頭土佐豊)が名乗っていた『間垣』の名跡取得にも動いているとも聞きます。ならば、これ以上晩節を汚さず素直に引退すべき、というのが各界関係者の一致した見方です」
加えて角界では現役時代に突出した成績を残した横綱は、一代年寄が認められ、名跡がなくとも、引退後5年間は現役力士のしこ名のまま、親方でいられるという。
「年寄名跡、俗にいう親方株の襲名は年寄資格審査委員会や理事会の審査を通ることが条件で、審査には実績だけでなく、力士の品格にも大きなウェイトが置かれています。白鵬の場合、負けた勝負で審判に物言いを要求し、それが通らないと真っ向からケチをつけたり、表彰式で観客に万歳三唱をさせたり。また、立ち合いでも顔面狙いのエルボーを連発、そのたびに協会は『勝つためには手段を選ばないのか』『横綱としての品格はゼロ』といった苦情が殺到しているのは事実。ただ、一方で優勝44回の単独記録をはじめ、その実績は誰がどう言おうと突出している。そう考えると、一代年寄が認められる可能性は大きい。つまり、どう考えてもこのままバッシングされ続けて土俵にこだわるより、潔く身を引いたほうが賢い選択だと思うのですが……」(前出・記者)
しかし、白鵬にはどうしても引退を7月場所まで引き伸ばしたい理由があるというのだ。その理由を相撲ジャーナリストはこう語る。
「その理由がズバリ東京五輪です。白鵬の父、ジグジドゥ・ムンフバトさん(故人)は、モンゴル相撲の覇者として過去6度の優勝を誇りますが、実は、68年のメキシコ五輪ではレスリング代表として同国初の銀メダルを獲得した英雄です。そんなこともあって、彼の気持ちの中には、なにがなんでも五輪の開会式で土俵入りを披露し、五輪後に優勝して有終の美を飾る、というビジョンがある。それを実現させるためには、周りに何を言われようが引退する気になれないようです」
とはいえ、このまま休場が続けば、「引退勧告」も時間の問題だろう。泣いても笑っても、結果は来場所。さて、勝負の行方は……。
(灯倫太郎)