今シーズンのプロ野球もいよいよ開幕。8年ぶりに楽天に復帰した田中将大投手や巨人のコーチに就任した桑田真澄氏など、ビッグな話題がてんこ盛り。熱狂的なG党の天才テリーも心ここにあらず? そこで球界のレジェンドにして、野球解説者の山本昌氏に今季の展望を聞いた。
テリー 今年のプロ野球、無事に開幕。
山本 良かったです。今年は盛り上がると思いますよ。やはり、いちばんの話題は田中マー君(田中将大)が楽天に帰ってきたことですよね。
テリー うれしいですね!
山本 楽天には他に則本(昂大)君や岸(孝之)君がいますし、去年ドラフトの目玉だった早川(隆久)君も、このまま行けばローテに入ってくるでしょう。投手力で言えば12球団の中でトップ。だからパ・リーグは、1強のような状態のソフトバンクに楽天がどう絡んでくるか。そこに注目ですね。
テリー やはり優勝争いはその2チームですか。
山本 パ・リーグは全体的にレベルが高いですから、ダークホース的なチームが優勝をさらう可能性もありますけど。混戦になりそうですよね。
テリー マー君ってメジャーに行く前に24勝しましたよね。ハッキリ言って、あれは出来すぎだったと思うんです。
山本 おっしゃる通りです。神がかってましたから。
テリー ねぇ。24勝のうち4つぐらいは負けても全然おかしくなかった。だから、あんな活躍は当然、期待できないし、冷静に考えれば、力が落ちたからヤンキースは手放したという見方もあるわけですよね。
山本 当然あります。ただ、その分、経験がありますから。さすがに24勝はないと思いますが、普通にやれば間違いなく2桁はしっかり勝つ。私は15勝ぐらいはいけると思ってます。
テリー 15勝はすごいなぁ! でも、本心はメジャーに残りたかったはずで、それがコロナとかいろいろ条件が重なって、ありがたいことに日本に帰ってきてくれた。日本中のファンが大喜びですよね。これってピッチャーとしては、やりにくくないんですか?
山本 普通は「メジャーであれだけやったのに、日本ではこんなもんか」って思われるのが、いちばん嫌でしょうね。ただ、マー君がそれを気にするとも思えませんし、20勝近くする力があって、メジャーに行って、あれだけの活躍をしたわけですから。
テリー そりゃ、そうか。
山本 私はあれだけの強打者たちに対峙してきた経験があれば、各チームのナンバーワンクラスの打者以外は、ある程度、見下して投げられると思うんです。そのへんで優位に立てるんじゃないかと思いますね。
テリー 逆はないんですか。どの打者もマー君の首を取って名前を上げてやろうと思ってますよね。マー君からホームランを打てば、翌日のスポーツ紙の一面ですから。
山本 それもありますよね。オープン戦でマー君から3ランを打った中田翔君が「ほれ見ろ!」って感じでしたから(笑)。みんな必死で攻略にきますよ。パ・リーグはセ・リーグより野球全体がパワーに移行してますので、力対マー君の激突が見られます。それはもうみんな張り切ってると思います。
テリー セ・リーグでいえば、桑田(真澄)さんが巡回コーチ(1軍投手チーフコーチ補佐)という形で巨人に戻ったのも大きな話題ですよね。それも1月に急に原(辰徳)監督から声がかかって、じゃあやってみようかっていう。あれってビックリですよね。
山本 いや、ビックリしました。野球界に32年身を置きましたけど、ああいう人事は初めてです。あの時期に正式なコーチとしてOBが招聘されるのは、ちょっと珍しいですね。
テリー ねぇ。
山本 ただ、桑田さんは非常に野球が好きで、現役時代からいろいろなことを考えながら経験を積んだ方なので、巨人の投手陣に絶対いい影響はあると思いますよ。
テリー 投手チーフコーチの宮本(和知)さんはテレビにもずっと出ていて、どちらかと言えばおちゃらけキャラじゃないですか。哲学者みたいな桑田さんとは対極ですよね。
山本 両方受け入れられる、原監督の度量の広さですよね。
テリー ああいう偉大な人が来ちゃうと、他のコーチはやりにくくないんですか。
山本 だからこその巡回コーチという立場なんだと思います。今のコーチを立てながら、桑田さんには1軍、2軍、3軍を問わず、いろんなものを伝えてほしいと。技術論にも長けてますし、僕らとはちょっと違う視点で冷静に野球を見られる方ですから、おもしろいと思いますよ。
テリー それで巨人の投手陣が良くなるといいんですけどね。僕、去年の日本シリーズで嫌というほど実感したんですけど、今の巨人は1戦目で菅野(智之)が打たれたら終わりじゃないですか。もちろん、新しい投手も取りましたけど、今のところあまり期待できないというか。
山本 まぁ、外国人投手と3年目の戸郷(翔征)投手あたりの成長に期待するか、といったところですかね。だから菅野投手が10近くは貯金するでしょうから、あとは他のピッチャーがどれだけ貯金を作れるか。ただ、坂本(勇人)、丸(佳浩)、岡本(和真)という3人の軸が崩れなければ、ジャイアンツは当然、優勝候補ですよね。
テリー 違うコーチが来たからって、選手の能力が飛躍的に伸びることってあるんですか。
山本 僕もそうでしたけど、野球って1つの武器を覚えると、一気にポンポンポンっと階段を上がることがあるんですよ。例えば中日の大野雄大投手が2年連続で最優秀防御率のタイトルを取りましたけど、あれはツーシームをしっかり覚えて、それを進化させたから他のボールも生きてきた結果ですよね。大野投手があれだけのピッチャーになるって、誰も思ってなかったですから。
テリー そうですよね。
山本 だから1つのきっかけでポーンと上がる可能性を探っての、桑田さんの起用っていうのもあるんでしょうね。
テリー 例えば宮本さんと桑田さんで意見が違う場合もあると思うんですが、そういう時、選手はどうするんですか。
山本 それは、どちらも試して、ダメだと思ったらやめればいいんです。自分がいいと思うもの、結果が出たものだけを残していけば。野球選手は個人事業主ですから、クビになってもコーチは責任を取ってくれません。だから、コーチは「お前、これをやらないと試合に出さないぞ」なんて言っちゃダメなんです。
山本昌(やまもとまさ)1965年、神奈川県生まれ。84年、日本大学藤沢高校からドラフト5位で中日に入団。入団5年目のアメリカ留学で才能が開花。その後はチームのエースに成長し、94年には「沢村賞」受賞。06年、史上最年長41歳でノーヒットノーランを達成、以降も数々の歴代最年長記録を樹立した。現在は、野球解説者・スポーツコメンテーターとして活動するほか、自らの経験を基に講演会の講師としても活躍中。