経団連に初の「女性副会長」が誕生、抜擢人事は菅政権への“すり寄り”か

 日本経済団体連合会、略して「経団連」は、会員企業1400社超で、東証1部上場企業ほか、日本の有力企業が揃って加盟していることから、「財界総本山」とも称される。その経団連の次期副会長に携帯ゲームのモバゲーでお馴染みのDeNAの南場智子会長が内定していることが3月8日、正式に発表された。6月の定時総会を経て就任する予定で、女性では初のことだ。

 その経団連だが、このところどうも芳しい話を聞かない。というのも、現会長の中西宏明氏がリンパ腫を患って心配の声が寄せられていたからだ。

「18年6月から会長を務めている中西さんは日立製作所出身で、就任当時は久しぶりの『大物財界総理』ともて囃されて周囲の期待も高かった。ところがほぼちょうど1年後の19年5月にリンパ腫が発覚。それでも意気軒高でリモート会見で怪気炎を上げてはいますが、最近の発言を見るにつけ世間とのズレを指摘する声も目立つようになっています」(経済誌編集者)

 そういったズレの1つが、菅首相が公約で掲げたカーボンプライシングの導入へ条件つきでありながら前向きに検討する意向を表明したこと。カーボンプライシングは企業や家庭にCO2の排出量に応じた費用負担を求めるもの。もちろん地球全体の温暖化対策としては画期的な仕組みではあるが、経済活動においてマイナス影響は避けられない。だから経団連としては反対の姿勢で一致していたのだが、中西発言でスタンスは180度変わってしまったことになる。「変節ではないか」と内部から声が上がるのも当然だ。

 現政権への「すり寄り」と見る向きもある。

「安倍首相が経済成長へのエンジンとして立ち上げて政策ブレーンが集った『未来投資会議』には中西さんが中心メンバーとして加わっていましたが、菅さんがこれに代わって立ち上げた『成長戦略会議』には経団連のメンバーが座る椅子は用意されていませんでした。主要経済3団体の日本商工会議所会頭の三村明夫さん(新日本製鉄)と経済同友会幹事の櫻田謙悟さん(SOMPOホールディングス)はしっかり入っているのですが…。経団連は菅さんからソデにされているというのが実情でしょう」(前出・編集者)

 経団連ではこの5月で3人の副会長が任期を終える。そこで、「女性初」の副会長を出すことは経団連にとってもともと待望でもあり懸念でもあった。その中でも南場氏はかねてから有力候補とされていたので、今度の人事は予定通りと言えば予定通りだ。さらに上記のような官邸と経団連との距離感を鑑みれば、むしろ南場氏の起用は必然とも取れる。というのも、南場氏は成長戦略会議のメンバーであり、DeNAベイスターズのオーナーで菅首相の地盤である横浜に深く係る“お友達”だからだ。

 これで経済界での女性進出が1歩先に進むことになるが、「快挙」達成の裏には複雑な事情が見え隠れしているようなのだ。

(猫間滋)

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