新型コロナウイルス対策として、飲食店や庁舎などで様々な「除菌システム」や「消毒法」が導入されている。しかし、今回のコロナウイルスに関しては、臨床データが少ないことから、しっかりとしたエビデンスを示すことができず、いまだ未知の部分が多い。様々な情報が錯綜しているなかで、注目が集まったのが「次亜塩素酸水」だ。抗ウイルス効果があるといわれ、コロナウイルスにも一定の効果があるという見解を示す団体や研究機関もある。15年以上前から食品添加物(殺菌料)として指定されており、安全性も高いとされてきた。
「次亜塩素酸水は塩酸または食塩水を電気分解して得られる水溶液を指しています。この次亜塩素酸水を生成する装置についても規格基準が定められていますが、それをふまえて全国各地の飲食店や市役所、小中学校などでも次亜塩素酸水の噴霧器を設置していた。中には入口に一台約100万円とも言われる『除菌トンネル』を店舗の入り口に設置し、来店客の全身に次亜塩素酸水を噴霧するシステムで、対コロナ対策をPRする飲食店もありました」(社会部記者)
しかし、5月29日、経済産業省は《「次亜塩素酸水」の空間噴射について(ファクトシート)》を発表。6月4日には文部科学省も学校で次亜塩素酸水噴霧器を使わないようにと、全国の教育委員会に通達した。これらを受けて、学校や役所、飲食店などで次々と噴霧器が撤去されることとなる。いったいなぜここまで評価が一転したのか、医薬品流通関係者に話を聞いた。
「まず今回の噴霧休止の大元となった『消毒液を人体に噴霧することは推奨しない』という世界保健機関(WHO)の見解ですが、例として上げている薬品はホルムアルデヒドや塩素系薬剤などの強い薬品です。次亜塩素酸水程度のものを念頭においていないのは明らかです。次に国内での流れを決定した経産省のファクトシートですが、大枠としては次亜塩素酸水の有効性・有害性ともに現時点でははっきりしていない、という保留見解です。これは経産省の要請で新型コロナの消毒方法を評価している独立行政法人・製品評価技術基盤機構(NITE)の見解を元にしたものです。このWHOの消毒液への見解と、国内の次亜塩素酸水への立場保留という全くレベルの違う見解が混ざり合って、次亜塩素酸水噴霧=有害のイメージが先行してしまった感があります。文科省は事なかれ主義で同調しただけでしょう。その流れに乗る形で次亜塩素酸水の有害性を唱える有識者もいますが、そのレベルでいったら1日何度もアルコールで手を除菌するのも、外出中ずっとマスクをしているのも身体には有害ということになってしまいますね」
いずれにしても、大金をかけて次亜塩素酸水関連の機器を導入した飲食店が不憫でならない。今後、コロナ関連の設備投資には、スピード感よりも慎重な姿勢が求められそうだ。
(オフィスキング)