野村克也・月見草84年の真実(2)墓場まで持って行った「ボヤキ」〈1〉

 野村氏といえば、念仏のごとくブツブツと奏でる「ボヤキ」で知られた。しかし実際に表に出てくるのはごく一部。結果的に墓場まで持って行った未公開ボヤキを一挙大放出しよう。

「楽天監督就任1年目の話です。春季キャンプのミーティングで監督の話をノートにメモしていないことがバレてしまいました。その時はミーティング後の自由時間に確認に来たマネージャーに、一緒にいた後輩のノートを見せることでごまかしましたが‥‥」

 こう語ってくれたのは、元楽天の山﨑武司氏だ。野球の理論や人間道徳を説いた野村氏の話をメモした冊子は「野村ノート」として選手たちの財産になっている。

「それから2年ほど時間がたったあとに、ノートを取っていなかったことを打ち明けると『そうやろうな』とひと言返したあとに『でもな、俺のミーティング中にノートを書かんかったバカタレはもう一人おる』と含みのある言い方をするんです。誰なのか尋ねてみると『長嶋一茂や! 一茂とお前だけや』とどなられましたよ」(山﨑氏)

 野村ID野球の劣等生だけでなく、優等生にも舌鋒は及ぶ。球界関係者が明かす。

「ある雑誌の対談で古田敦也について話題が上ると『あいつはケチだから若手に人気がなかった』『遠征先の食事も毎回、広澤と池山が払っていたらしい』と古田が監督として大成できなかった理由を次々とボヤいていました。あまりにも古田本人を揶揄する内容だったのでお蔵入りになりましたが」

 完膚なきまでに古田をコキ下ろしているが、決して関係性が著しく険悪だったわけではない。

「ノムさんは選手とは一定の距離を取るタイプで、一緒に食事に行くこともほとんどなかった。それでも引退後は別で、古田とも何度も食事したそうだよ」(球界関係者)

 昵懇の師弟関係だからこそ、ついつい本音を漏らしてしまうのである。

 時として、シャレなのか本気なのかわからないムチャなボヤキも炸裂するようだ。角氏がヤクルト投手コーチ時代の逸話を明かす。

「2年目の山部太が前半戦で11勝した時には『山部を20勝させろ』と言われて頭を抱えたことがありました」

 ボヤキ効果なのか、この年にあげた16勝が山部のキャリアハイの成績となる。角氏が続ける。

「ホームランを打った選手にも『その前のボールだったらもっと簡単に打てただろう』と文句が飛び出していましたよね」

 野村氏のボヤキには選手を批判するような内容も少なくない。一見するとチームの士気が下がる原因になりそうなものだが、当時のチーム内には野村氏の言葉を真摯に受け止める空気があったという。

 野村ヤクルトのローテーションの一角を担った現ヤクルト・岡林洋一編成部スカウト担当が語る。

「監督は『無視、称賛、批判』という言葉をよく口にしていました。無視されるのは三流、称賛されて二流、批判されて一流という意味の言葉です。ほめられるのは期待されていない二流選手と捉えていました」

 ボヤキの餌食となるのは一流選手の証しだった。

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