日本列島を縦断した台風19号は、福島第一原発をも直撃。大きな爪あとを残した。だが、大雨被害に見舞われたにもかかわらず、その実態はほとんど報じられていない。そこで「過酷被災地」を徹底取材。するとズサンな現場が見えてきたのだ。
福島県田村市。郡山市に隣接する中通り中部の街を襲った台風19号は、「想定外」の被害をもたらした。中通りを縦貫するのは、宮城県に注ぐ阿武隈川。その支流の多くが氾濫し、田村市も水害に襲われたのだ。支流の大滝根川も例外ではなく、台風が過ぎ去ってから10日が経過した10月22日時点でも河川沿いの住宅の多くが床上浸水に見舞われ、その後始末に追われていた。船引町に住む住民が苦しい胸の内を明かす。
「今回の台風は3.11の東日本大震災よりもしんどい。震災当時、福島県の沿岸部は地震による津波の被害がありましたが、内陸部にあたる田村市の被害はそこまでひどいものではありませんでした。もちろん、(福島第一)原発事故による放射能の影響は無視できないですが、直接的な実害自体は少なかったので、地元ではそれほど神経質にはなっていなかった。ところが、今回の台風では河川の増水で水道局や発電所がダメージを負ってしまい断水や停電につながった。ウチの地域では、水道管の中継地になっていた橋が流されて、つい3日前(10月19日)まで水道が出ませんでした」
実際、台風の爪あとは相当深刻なもので、JR郡山駅とJRいわき駅を結ぶ磐越東線はいまだ運転を休止したまま。10月25日になり、ようやくバスによる代行輸送が始まったばかりである。
車の運転がままならない高齢者や学生は、孤立した生活を10日以上にわたって送らざるをえなかったというのだ。
「(台風19号以前に上陸した)台風15号の被害が大きかった千葉県や死者数の多いいわき市は全国ニュースに出てくるけど、福島の内陸部の話はまったく出てこない‥‥。ボランティアも来ないから自分たちで何とかするしかないんだ」
と先の地元住民は肩を落とす。
だが被害はそれだけではなかった。大滝根川の氾濫により、川沿いに程近い場所に一時保管されていた「除染廃棄物」が流出。一部が河川に流れてしまったというのである。地元記者が解説する。
「除染廃棄物の入った袋は『フレコンバッグ』と呼ばれ、田村市にも福島第一原発の事故後に除染された土壌などの一部が袋詰めされて保管されていた。ところが、今回の台風で周辺の水かさが増した影響で一部の袋が流されてしまいました。田村市によると23日の時点で20袋の流出を確認。そのうち19袋は回収し、残りの1袋は周辺の水かさが下がりしだい回収の予定です。また、回収した19袋のうち8袋の中身は無事でしたが、残り11袋については中身が破けて、全て流出した空っぽの状態だったようです」
環境省は今回の台風19号による「フレコンバッグ」の流出が実に55袋に上ることを公表。小泉進次郎環境相も10月15日の国会答弁で、
「回収されたものは容器に破損はなく、環境への影響はないと考えられる。引き続き、現場やそれぞれの仮置き場の状況の確認を実施していく」
と、大量流出の事実を軽んじ、あくまで「安全である」と強調するばかりなのだ。