だが、こうした行政の姿勢に疑問を呈するのが、原発問題の取材を続けているジャーナリストの木野龍逸氏である。
「人体には影響のない数値が出たのは事実でしょう。放射能というのは一度、空気中や水中に出ると希釈されるもので、当然、除染廃棄物内の濃度よりも薄まります。ですが、人体に影響のない数値でも、未来永劫、健康に害がない保証はありません。福島原発の事故当時に民主党幹事長だった枝野幸男さん(現・立憲民主党代表)も『ただちに人体に影響はない』とコメントしていましたが、即刻、影響が目に見えるものじゃないですからね。すぐさま、実態の究明と対策に乗り出してもらいたい」
実際、環境省は「周辺の空間線量の値には影響はみられない」と放射能による汚染はみられないとの見解を示しているが、はたして自治体による「台風対策」は十分だったのか。田村市生活環境課原子力災害対策室の渡辺庄二室長に確認すると、今回の台風の勢力が想定外だったと証言する。
「環境省からは県を通じて大型台風接近に対して警戒態勢を取るように指示が出ていましたが、具体的な方策については各自治体に委ねられていました。田村市では地域巡回を徹底して流出に備えていました。ですが、想定外の雨量だったために除染廃棄物の袋の流出を防ぐことはできませんでした」
さらにはズサンともいえるフレコンバッグの管理実態についても指摘すると、意外な回答が返ってきた。
「田村市は18年に生活圏の除染を完了させていて、仮置き場に置かれた袋を中間貯蔵施設に運搬する段階でした。通常、雨風による流出を防ぐために袋の上にシートを養生するものなのですが、運搬に向けてほとんどが養生されていないムキ出しの状態でした。再び、シートで養生しようにも1日2日で終わる作業ではないため、結果として野外に放置する状態となりました。流出が確認された地点の空間線量や水線量を測定し、人体に影響のない数値だったと確認しています」
しかし、こうした行政側のお気楽な回答は今回が初めてではない。田村市に70年住む男性が怒りで声を震わせる。
「2015年に飯舘村で流出した前例がまったく生かされていない。実際、大型の台風が来るのはわかっていたのに、袋は道路や川の周辺に野ざらしにされていた。国や行政はどのような対策を行ったのか、疑問しか出てこないよ」
過去にも同様のケースで、フレコンバッグが流出していたのだ。地元記者が解説する。
「実は15年9月に大雨で飯舘村を流れる河川が増水。これにより田んぼに置かれていたフレコンバッグが448袋流出したという大惨事が起きた。その中身の多くは稲刈り後の稲だったといいますが、その時も『数値に影響はない』の一点張り。根本的な改善策には至らなかっただけに、同様の台風や大雨などの自然災害が起きた時に、はたして対策が十分講じられるのか、大いに疑問が残ります」
環境省も今後の再発防止策を検討していると語っているが、具体案については、いまだ示されていないのが現状だ。田村市側の対策も十分とはいえない。
「大雨のケースに備えて流出が想定される箇所に土嚢袋を敷き詰めるなどして対応しています。根本的な河川の整備につきましては、原子力災害対策室の管轄ではありません。農道沿いなのか市道沿いなのかによって異なる部署ごとに整備を進めていく予定です」(渡辺室長)
これでは河川沿いの住民はたまったものではないだろう。