暴風のようなトランプ関税は、歴史の残るほどの凄まじい展開を見せている。
今回の相互関税の“脅し”を見るに、トランプ大統領が米国繁栄の背景をよく理解していないと言わざるを得ない。米国は世界で最も豊かで繁栄した国だが、唯一の懸案が財政収支と貿易収支の赤字である。
この赤字を指してトランプ大統領は、カナダ、メキシコ、中国、EU、日本などが米国市場で大儲けしていて「けしからん」と吠えまくった。
本来なら、財政と貿易の赤字が数十年も続いたら、国の経済は破綻するだろう。ところが、米国は一度もデフォルト(債務不履行)さえしなかった。その理由は、どれだけ赤字に陥っても不足分のドルを発行できたからだ。
これは、世界の基軸通貨であり世界的信用があるからこそできる施策だ。中国なら元を、インドはルピ―を刷ればいいと考える人もいるだろうが、世界からの信用が無ければ、自国通貨を大量に刷っても価値が下がるだけ。要は、どの国にも通貨があるが、「ドル」が世界で最も信認されているため、同盟国でない中国、ロシア、イランでさえ、米国債(米ドル)を買い求めてきたのだ。
ところが、トランプ大統領が「ドル」の信用を棄損する行為に出たものだから、世界的に「ドル離れ」が始まった。棄損行為とはほかでもない、相互関税である。相互関税は文字通り互いに掛けあうものだが、トランプ政権は同盟国に対しても一方的に課したうえ、中国とはまるで“セリ”のごとく吊り上げの応酬となった。
これに反応したのが債券市場だ。トランプ大統領が相互関税を発動すると株価が急落。株価危機の際には代わりに安全資産の米国債が買われるのが常だが、今回は米国債も売られた。市場には、激怒した習近平中国が「殴られたら殴り返す」とばかりに米国債を大量売却しているのでは?との観測が広がった。すると世界の投資家たちも米国債の売りに走った。
「ドル急落」――。トランプ大統領にとって、想定外だったに違いない。大統領自身、記者団に対し「債券市場はやっかいだ」と述べている。即座に90日間の措置延長を宣言したが、いったん棄損した信用は一朝一夕には戻らない。
これはアメリカ凋落の始まりなのか。米国債が発する危険シグナルを世界が感じ始めている。米国経済に大きく影が差している。
(団勇人・ジャーナリスト)