マキタスポーツが追求する「型破りグルメ道」(3)食べる行為は性的なモノ

「空腹は最高の調味料」という言葉にも、マキタはとりわけ反応する。

「空腹をエンターテインメントとして、自分の中でしっかりと感じることが一番だと思います。僕には、おなかが空くっていう瞬間を狙う感覚があるんです。例えば朝起きて、おなかがグルンって鳴って、減った瞬間を捉えるのが好きなんですよ。それで何か食べて満たされると、逆にめちゃくちゃつまんない。で、早くまたおなかが空かないかと備える、っていう感覚なんです。気がついたらおなかが空いてるっていう感覚はもったいない。食事を楽しむことは、空腹への気づきから始まっているわけです。

 例えば、この女性と今から性交渉できると思ってる時がいちばん楽しいというか。あっという間に果てそうな気がしてくるわけです。それだと僕は、グルメ界の早撃ちみたいな感じになっちゃいますけど(笑)。そして、情事の後の余韻も楽しむ。グルメのピロートーク的なものもあるわけです。結局、僕はご飯を食べる行為は性的なものだと思うんです。事前に興奮してる状態を作って、食事を楽しみたい。歴史上、こんなに食が満たされた時代はないと思うんですよ。だからこそ食への感覚を巻き戻して、自分で飢餓感を作って、研ぎ澄ましておきたい、という思いもあります」

 グルメに対し独特の感性を持つマキタだが、自身も出演したシリーズドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京系)にも共感するという。

「久住昌之さんの原作ものは若い頃に読んでいました。あのジャンルのパイオニアですもんね。すごく好きですよ。井之頭五郎が食べている時、心の中でめちゃくちゃ饒舌になり、スパークしてる感じがしますよね。あの時、集中して周りの雑音が聞こえなくなり、すごい静寂の中にいると思うんです。僕も似たような感覚があって、実際に心の中であーだこーだとしゃべっていますからね」

 少なからず同作品にも影響を受けたようだが、マキタが食について理論立てて語るルーツは別なところにもあった。

「本当に恥ずかしい話なんですが、芸能の仕事をする前から、食に対する批評文みたいなものを誰に見られるわけでもないのに書いていたんですよね。20代の若かりし頃、田舎から出てきて、東京のラーメンのうまさにびっくりしたのがきっかけです。『青葉』『くじら軒』『麺屋武蔵』などなど、当時評判のラーメン屋さんを食べ歩いては日記的なものを残していました。

 音楽雑誌『ロッキング・オン』とかの影響もあったのかなあ。ラーメンを渋谷陽一(音楽評論家)のように語ることを、勝手に自分に課していたみたいです」

 世間のラーメン語りがワッと花開く前、90年代前半に「ラーメンショップみたいな店は、ジャーニーみたいなもんだ」などと、渋谷陽一氏が産業ロックを批判するような体で書いていたという。

「だから、うんちくや考えて語ることは大好きなんですけど、自慢げな暮らしの中にある飲食風景を見ていると、僕はちょっと恥ずかしくなるんですよね。だから、語ることに照れもあります。もともと食べるという行為に変な自尊心もあるんですけど、その一方でちょっと原罪のようなものも感じておりまして。評論行為はとても褒められたもんじゃないなっていう感覚もあるんですよね。

 幼い頃からビートたけしさんの影響を受けていて、その後を方向づけられたようなところがある。たけしさんは『メシぐらい四の五の言わずに黙って食え』みたいな教育を受けてきた人なので、僕もそんな原罪を感じつつも、引き裂かれた感覚の中で、食についてあれこれ批評をしています」

 そして書き上げたのが、「グルメ外道」(新潮社)だ。

「担当編集者に『何でもいいですから、ドンドン書いてください!』と乗せられて、世の中のトレンドとは無関係なところで、僕の性分や生理に沿ったグルメ論を書きました。恥ずかしい部分もあるのですが、読み終わった時に高揚して景気づいて、『何か食べたい!』みたいな感じになってくれたらいちばんいいかなと思ってますよ」

「外道」と銘打った、グルメに対するマキタの「王道」を感じずにはいられない。

マキタスポーツ:1970年、山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家など、多彩かつ旺盛に活動中。映画「苦役列車」で第55回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。先頃、「グルメ外道」を上梓した。

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