マキタスポーツが追求する「型破りグルメ道」(1)料理の余り汁を再利用する

 昨今はネットやSNSを通じ、ありとあらゆるグルメ関連情報が途切れることなく拡散されている。情報過多の状態を憂いて、己の感覚で忠実に〝食道〟を追求する男がいる。カップ麺に湯を注ぎ、5分ではなく10分待って食べる「10分どん兵衛」を大バズリさせた芸人・マキタスポーツだ。比類なきグルメ論(食癖)を披露してもらおう。

 マキタスポーツが提唱した「10分どん兵衛」は、製造元も公式に認めるほど市民権を得た。とはいえ、大バズリは結果論だったという。

「狙ったものではなくて、必要に迫られて生まれたもの。大学生時代は貧乏で、ひもじさからカップ麺をふやかして、かさ増したのがきっかけですからね。

 2015年に自分のラジオで話したことから広がったわけですが、僕は開発者でもないのに、どん兵衛の麺はふやかし10分の耐性のある麺だと言い切っていました。日本人って平均的な人たちが多いから、その半分の5分ぐらいを調理時間として表記していると思い込んでいた。

 そもそも僕は説明書が読めない人なので、一方的に決めつけていたわけです(笑)。(日清食品の公式レシピになって)お会いした担当者は毎日、どん兵衛を食べ、お湯を入れて5分待ち、気候による味の変化を真剣に定点観察していらっしゃった方なので、何だか申し訳なかった」

 それでも、湯を注いで10分では済まないこともざらだというのである。

「20〜30分はありますね。待つ間、シャワーを浴びたり、そういう生活のタスクをこなし、あとはどん兵衛に集中するだけの状態を作るんです。僕は博多の柔らかいうどんが好きで、そのイメージでいただいています。僕の娘は10分どん兵衛の存在を警戒していたのですが、今では喜んで食べている。彼女は伸びた麺を好まないタイプですが、10分どん兵衛だけは受け入れてくれていますよ」

 食に対する、飽くなき探求心。マキタはカップ麺ばかりか、料理の余り汁を積極的に再利用することも厭わない。

 ぶり大根、ニラレバ炒めなどの余り汁をタッパーに取っておいて冷蔵庫に保管。翌日以降に生まれ変わらすのが性分だという。

「アレンジは自由で、雑炊の〝原資〟にしてもいいし、うどん汁として再利用してもいいでしょう。最近だと、アヒージョを作ってオリーブオイルがけっこう残って、これをスパゲッティに流用したり、トーストに塗ったりしました。これには家族も喜んでくれましたよ」

 今でこそ家族にとって日常風景となった余り汁の再利用だが、結婚前はのちの夫人を納得させるのに時間がかかったそうだ。

「魚の煮付けの残り汁をタッパーに入れて冷蔵庫に保存していると、彼女が『この得体の知れない汁は何?気持ち悪いから捨てて』と迫ってくる。例えばタラと豆腐を醤油仕立てで煮込んで、タラと豆腐がいなくなった残り汁は、めちゃくちゃおいしいんですけど、取っておく習慣がない人に、すぐには理解されません。汚染されまくった川の水にも見えなくないわけですからね」

マキタスポーツ(写真):1970年、山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家など、多彩かつ旺盛に活動中。映画「苦役列車」で第55回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。先頃、「グルメ外道」を上梓した。

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