なんらかの原因により脳細胞へ血液を送る血管が細くなったり、血栓ができることで、血液がその先へ行き届かず、脳細胞が障害を受けることによって起こるのが脳梗塞だ。脳卒中は脳梗塞ほか、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作の4つの種類に分類されるが、中でも近年は脳卒中全体のうちで約7割を占めるのが脳梗塞だといわれている。通常、脳梗塞は比較的太い血管が閉塞することにより、広範囲の脳組織が酸素不足に陥り症状が発生。その要因とされるのが、高血圧やメタボリックシンドローム、糖尿病のほか、頸動脈の動脈硬化、慢性腎臓病、不整脈、そして家族歴だと言われている。
ところが、ダメージを受けている脳組織がごく一部に限られ、脳の細い血管が閉塞することで発生するため症状が現れづらく、知らず知らずのうちに進行してしまうのが、いわゆる隠れ脳梗塞といわれるものだ。この隠れ脳梗塞、医学的には無症候性脳梗塞と呼ばれるのだが、具体的な症状が現れづらいため、MRI検査などの高度な画像診断技術を使用しない限り、発見されることはほとんどない。
しかし、研究機関のデータによれば、隠れ脳梗塞は30歳代で5人に1人、40歳代で4人に1人、50歳代で3人に1人と増えていき、60歳代では2人に1人、そして70歳以上は、なんとほぼ全員にこの現象が見られるというから驚くばかりである。
隠れ脳梗塞がある場合は既に血管にダメージを受けているため、新たな血管の詰まりが発生しやすくなる。それが太い血管であれば通常の脳梗塞を引き起こすリスクが高まり、最終的には破裂して脳出血を引き起こす可能性もある。脳出血というのは、血管が破れ、血液が脳内に流れ込む状態。つまり、死に至る危険性もあるということだ。
では、日々の生活において、隠れ脳梗塞を予防する方法はあるのだろうか。それが血圧の安定と、十分な睡眠によるストレス軽減だと言われている。現在、日本高血圧学会が公表する血圧の正常値は、診察室血圧で130/90mmHg以下、家庭血圧の場合は125/75mmHg以下。それ以上が高血圧に分類され、低血圧の明確な基準値は示されていないものの、一般的には収縮期血圧(最高血圧)が100mmHg未満の場合、そう診断されている。
血圧を安定させるためには、塩分控えめなバランスのとれた食事のほか、週に2、3回、1時間程度、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を行うことが効果的だ。有酸素運動が心臓と血管の機能を改善し、動脈硬化の進行を遅らせ、血圧のコントロールや心血管系の健康維持に役立つことはよく知られている。むろん禁煙と適度な飲酒を心がけることも重要だが、かくれ脳梗塞はMRIなどの特殊な検査でしか発見できないため、まずは高血圧や糖尿病のほか、成人病疾患がある場合は定期的な健康チェックをお勧めしたい。
そして、もしも突然、手足や顔がしびれる(麻痺)ようになったり、呂律が回らなくなった、あるいは片方の目が見えない、視野の半分が欠ける、物が2つに見えるなどの症状が出た場合は、早急に病院を訪ねること。脳梗塞が起こると脳に栄養を送る動脈の血行不良により、神経細胞が死んでしまう。そのため、1分1秒でも早く専門の急性期治療を受けられるかどうかで、後遺症の程度が大きく左右する。そのためMRI検査などで隠れ脳梗塞と受診された場合は、事前に24時間365日体制で脳卒中の専門治療を行っている専門医療機関をチェックしておくといいだろう。
備えあれば患いなし。事前の備えが、いざというときに命を守ることになることをお忘れなく。
(健康ライター・浅野祐一)