冬の寒い時期に急増するとされる心筋梗塞や脳梗塞。血管、血圧の異常が深く関係し、浴室でのいわゆる「ヒートショック」などがその引き金としてよく知られる、生命に直結する重大病である。だんだん暖かくなってきたとはいえ、季節の変わり目にはまた、さらなる注意が必要なのだが——。
「最近は沖縄本島でも50代、60代の若いうちから血管が詰まって心筋梗塞、脳梗塞だので倒れる人が多いみたいね。だけど、この島ではあまり聞かん。やっぱり、あの草のおかげかな」
こう話すのは、日本最西端の島、沖縄・与那国島の農家の男性だ。与那国島は沖縄本島からさらに約500キロ西に位置し、台湾とはわずか100キロ余りの「国境の島」である。
「あの草」とはいったい何か。沖縄の野草に詳しい野草研究者の喜友名隆一氏が解説する。
「もともと与那国に自生するセリ科の野草なのですが、島に数多い、波が打ち寄せる断崖絶壁で照りつける太陽と強い潮風に揉まれながら育ちます。それだけに、とにかく生命力が強い。なにしろ『長命草』と呼ばれるくらいですから」
その名の由来もズバリ、現地では「1株食べると1日長生きできる」と言われていたところからきているのだ。
「島の住民は自生したものだけでなく、自宅の周りにも植えて栽培してきました」(前出・喜友名氏)
ベテランの旅行ライターによれば、
「与那国はほとんど絶海の孤島とされ、昔は渡るのが難しいために『渡難(どなん)』と呼ばれていたそうです。とにかく島のあちこちが断崖絶壁だらけ。夏は日ざしが強いし、台風の通り道でもある」
そんな過酷な環境の中でたくましく育ってきたのが長命草なのだ。地元で栽培を手がける女性は言う。
「米や野菜など他の農作物は台風が来ると大きなダメージを受けますが、長命草は台風のあとにかえって元気になる。ふだんもたまに海水をまくくらいで、雑草取りを除けばほとんど自然のままで育っていきます」
日本各地の食文化を取材するジャーナリストが、地元住民の食べ方についてこう解説する。
「与那国島では昔から刺身のツマや和え物などにして食されます。お年寄りは長命草を混ぜたチャンプルーを食べたりも。その独特の苦みと香りが魚や肉の臭みを消してくれ、毒消しとしても有効なため、長寿の秘訣として代々受け継がれてきました。長命草をはじめとする野草を発酵させた酵素を飲んだりして、元気な人がやたらと多い。しかも自分で摘み取ってくるんですから、いい運動にもなりますよ」
長命草が与那国の健康長寿の一端を担っている、とも付け加えるのだ。