厚生労働省が発表した「令和5年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によれば、日本人の死因で癌の次に多いのが心疾患だった。中でも「三寒四温」が続く春先に気をつけたいのが「心筋梗塞」だ。何気ない体の変調をスルーしてしまうと‥‥。
「心筋梗塞とは心臓に血液を送る3本の冠動脈のいずれかが詰まった状態です」
と語るのは、愛知県小牧市の「健康塾クリニック」の鳥越勝行院長だ。血液を全身に送り出すポンプの役割を担う心臓。酸素や栄養を全身に届けるのみならず、二酸化炭素や老廃物を回収するだけに、機能不全は生命の危機に直結する。
「血管の中に『アテローム』という袋状の構造物ができてしまい、そこから出血した血液が固まった『血栓』で血流が悪くなってしまう。完全に詰まってしまうと、約20分後に血管の支配領域から壊死が始まってしまいます。死亡率の高い疾患ではありますが、症状が現れてすぐに医療機関で外科的治療にかかれば救命率も高い。もっとも、心筋梗塞の症状には個人差があります。糖尿病の患者だと痛覚が鈍ってしまうので、心臓の働きが低下しているのに気づかないケースも少なくありません。眠ったまま不整脈を起こして、帰らぬ人となることもままあります」
症状を事前に押さえておくことが肝要となる。まず発症時によく現れるのが急な胸の痛みだ。
「胸の強い締めつけ感や圧迫感があると訴える患者さんは多い。『不安性狭心症』という、心筋梗塞の前段階でも見られる症状です。心臓につながる冠動脈の内側が狭くなって血流が悪くなった状態で、運動時でなくても胸が苦しくなったり、胸やけを感じたりしてしまいます。この時点でも突然死のリスクがあるだけに、医療機関で検査を受けましょう。重症の場合は心臓の機能が低下して、心不全に陥ることもあります。そうなると肺に水が溜まって、呼吸困難に陥ることも少なくありません」
ちょっとした運動で症状が現れるのも危険なサインのようで、
「『労作性狭心症』の症状が現れている可能性が高い。坂道や階段を上ったり、重いものを持ち上げたりする動作で動悸や胸の痛みが出てしまいます。冠動脈の内側が狭くなることで、十分な酸素の供給ができなくなるのが原因です。痛みなどの症状が数十分で収まるのも特徴の1つ。週に1回だった症状が、週に2~3回と徐々に頻度が増えていきます。毎日症状が続くようならば、かなり進行している可能性があります」
寒い時期の入浴にも注意を払わなければならない。
「お風呂で心臓の鼓動が速くなって、発作を起こしてしまうことがあります。特に40歳以上の中高年の場合は、42度以上の湯船に10分以上肩まで浸かる時は注意しましょう。お湯に深く浸かってしまうと、全身の血管が広がって血圧が過度に低下してしまうことがあります」
お風呂で体を温めれば温めるほどよい、というのは昭和までの考え。何事もほどほどを知ることが健康的なのだ。
暖かい場所から寒い場所に移動するのに、薄着で行動しがちな人も×だ。
「秋から春先にかけて、ゴミ出しや近所のコンビニまでの買い出しなどで、部屋着のまま外に出るのは危ない。暖かい部屋の中から寒い外気に触れると、ピンッと目が覚めることがありますよね? これは急に気温が下がった影響で、血管が収縮して血圧が急上昇しているからなんです。きちんと暖かい格好をして外に出るようにしましょう」
痛みなどの違和感が現れるのは胸部だけではない。
「左肩や顎に『放散痛』という心臓の疾患に伴う痛みが現れることがあります。左肩や顎に流れる神経と心臓の痛みを感じる神経はつながっているので、顎や腕から背中にかけて痛みが広がってしまうのです。顎が痛い場合は、虫歯と勘違いするケースも少なくないようです」
ちなみに、心筋梗塞そのものには遺伝要因はないという。しかし、原因の一つとなる動脈硬化は「家族性高コレステロール血症」などの遺伝性疾患が影響を与えてしまうこともある。
「両脚のシビレや冷えを単なる冷え性だと思って放置してはいけません。というのも、『閉塞性動脈硬化症』の疑いがあるからです。悪玉のLDLコレステロールが血管を狭くして、血流を悪くしてしまう。一定の距離を歩くと脚の筋肉に痛みが生じて歩けなくなるなどの症状が現れてしまうのですが、最悪のケースでは足が腐ってしまう。脚部の血管が悪い人の約3割は、冠動脈疾患のリスクも併せ持っています」
早期発見と早期治療が絶対ながらも、生活習慣病の予防がリスクを低減させるようで、
「まず、タバコは厳禁です。食事も脂質や炭水化物を抑えるようにしましょう。脂質を摂りすぎると、コレステロール値が上昇しますし、炭水化物の摂りすぎは血糖値を上昇させてしまいます。野菜を多く摂り、良質なたんぱく質も摂るように気をつけましょう」
適度な運動習慣はズバリ「週3回の早歩き30分」だ。
「ジョギングでも30分走るのは案外難しいもんです。だいたい距離にして2~3キロを歩くことになると思います。難しい場合は通勤中になるべく階段を使うなど、日常生活の中でなるべく体を動かすようにしましょう。有酸素運動は動脈硬化の抑制効果があります。無理なく続けることが大事になります」
少し暖かくなっても寒い日が〝通り魔〟のように訪れる。油断せずに血管を労わる生活を心がけよう。
【「心筋梗塞」チェックシート⑦】
※以下の項目が多く当てはまるほどリスク高し!
健康診断の結果と照らし合わせて医療機関に相談するべし!!
①高血圧である(140/90mmHg以上)
②糖尿病である(空腹時血糖126mg/dL以上)
③喫煙している
④高コレステロール(LDL140mg/dL以上かHDL40mg/dL未満)
⑤肥満(BMIが25以上)
⑥運動不足
⑦家族に心筋梗塞の人がいる