ウクライナ情勢が、世界にとって好ましくない方向へ進んでいる。
トランプ大統領がプーチン大統領との会談を検討し、ウクライナ戦争の終結を目指している状況にある。トランプ氏はサウジアラビアでの対面会談の可能性にも言及し、ロシア主導の和平案を模索している兆候がある。そして、ウクライナのNATO加盟を「非現実的」と否定し、2014年以前の領土回復も困難とする立場を取っており、ロシアの要求に一定程度寄った形で戦争を終わらせようとしているように映る。
ロシア側は、ウクライナのNATO不参加や占領地域の支配を停戦条件としており、トランプ氏の発言はプーチン大統領にとって有利に働く可能性がある。
一方、ウクライナと欧州各国は、この動きに強い懸念を抱いている。ゼレンスキー大統領は、トランプ氏が自身を介さずプーチン氏と先に話すことに不快感を示し、ウクライナ抜きの合意は認めないと強調している。ウクライナにとって、ロシア主導の和平は領土割譲や主権の制限を意味し、到底受け入れられないためだ。
欧州では、特に英国やフランスなどが警戒を強め、NATOとは独立した欧州軍の設置や平和維持軍の派遣を検討し始めている。これは、トランプ氏が米国をウクライナ支援から遠ざける中、欧州独自の安全保障体制を構築し、ロシアの影響力を抑え込む狙いがある。しかし、ドイツなどは時期尚早として慎重姿勢を示しており、欧州内での意見対立も見られる。
今後のウクライナ情勢は、これら主要国の動きに大きく左右されるだろう。まず、トランプ氏とプーチン氏の交渉が進めば、短期的には停戦が実現する可能性がある。例えば、非武装地帯の設置やロシア占領地域の現状維持を軸とした妥協案が浮上するかもしれない。しかし、ウクライナがこれを拒否し欧州が支援を続ければ、戦闘が再燃するリスクは残る。ロシアは、プーチン氏の長期目標であるウクライナの支配とNATO拡大阻止を諦めておらず、和平を一時的な戦術と見なす可能性が高い。欧州が独自軍を展開すれば、ロシアとの直接対立が深まり、緊張がさらに高まることは避けられない。
そして、それが長期的に続けば、欧州が第三次世界大戦の震源地と化す可能性も排除できない。ロシアと欧州軍がウクライナで対峙すれば、偶発的な衝突から大規模戦争に発展するシナリオが懸念される。特に、米国が欧州へ関与しなくなれば、欧州が単独でロシアに対抗する構図になり、ロシアにとって米国なき欧州という都合の良い環境が到来する。無論、現時点では各国とも全面戦争を避けるため、経済的・外交的な圧力で均衡を保とうとするだろうが、情勢は流動的であり、偶発的なエスカレーションという事態も今後は否定できないだろう。
(北島豊)