楽天株下落で850億円損出「日本郵政」株主の脳裏によぎる「トールの悪夢」

 楽天Gの株安が深刻な事態になっている。年初来で見れば、最初は600〜700円に幅で推移していたものが、5月の後半になると600円を割り、6月後半の474円辺りを底値に、現在はやっと500円台をキープしているところだ。

 もちろん理由は、楽天モバイルに巨額な投資を強いられているからだが、まるでザルに水を注いでいるようだと、財務の悪化が投資家に嫌われている。7月4日には傘下の楽天証券の上場を申請したが、IPOでキャッシュは得られるもののグループ内の稼ぎ頭を失うことになり、それでも焼け石に水と評判が芳しくない。

 たまらないのは大株主だ。21年3月に物流・携帯電話・金融の事業分野で提携を結び、1500億円の出資を行った日本郵政は、保有する楽天G株の値が下げ止まらないことを受けて、850億円もの特別損失を計上すると発表した。

「他社の失策にもかかわらず、保有している株が下がってどうしようもないというのだから、日本郵政としても頭の痛いところ。ところが同じ発表では、『次期四半期以降の通期業績予想は当面据え置く』と、下方修正はしないとしています。ということはつまり、『この1年で楽天G株も持ち直す可能性があるから』と言っているようなもの。確かに楽天モバイルにはプラチナバンドの割り当てという希望がありますが、それよりも現在の株安は、楽天G単体では1175億円の現預金しかないのにもかかわらず、23年に780億円、24年に3325億円、25年に4760億円、26年に1625億円、27年に1700億円と、1兆2000億円の社債の償還を控えた財務の悪化が問題なわけです。日本郵政としては指をくわえて見ているしかないのかもしれませんが、なんとも他力本願な発表と言わざるを得ません」(経済ジャーナリスト)

 しかも、日本郵政の投資の失敗は今に始まった話ではないので、今回を受けて「またか!」という声が上がっている。

「日本郵政は15年にオーストラリアの国際物流会社のトールHDを6200億円で買収しましたが、17年には4000億円の特別損失を計上し、最終的には21年4月に現地の投資ファンドに事業を7億円で売却して、その処理で674億円の特別損失を計上しました」(同)

 だから今回の楽天Gの件も「第2のトール」などと呼ばれているのだ。

 そもそも日本郵政は15年に上場したものの、以後、19年にかんぽ生命の不正契約が明るみに出て以来、細かいものも含めると不祥事が後を絶たず、あまりパッとした話を聞かない。6月21日にあった株主総会では、株主から「経営ビジョンがない」との厳しい質問も飛び出したとか。さらにここで増田寛也社長が、需要が落ちる一方の郵便事業立て直しのためにタブー視されている2万4000カ所ある郵便局の統廃合を口にしたのだが、よく聞けば2040年をめどにとずいぶん悠長な話。

 楽天G株問題に留まらず、なんとも他力本願経営なのだった。

(猫間滋)

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