内戦が続くミャンマー。そのミャンマーにおいて、違法薬物の生産量がこれまでにない勢いで増えているという。国連薬物犯罪事務所(UNODC)は12月に入り「ミャンマーのケシ畑は4万5200ヘクタール、アヘン生産量は995トン。ミャンマーが世界最大の供給国で今後も増え続ける可能性が高い」と警告している。日本の防衛省関係者が解説する。
「ミャンマーでは少数民族武装勢力のひとつが昨年12月21日、国軍の管区司令部を制圧したと明らかにした。3年前の軍事クーデター以来、圧倒的軍事力でミャンマーを抑えてきた国軍が、ここにきて反政府勢力の反転攻勢に苦戦している。この一進一退の攻防と違法薬物の急増は切っても切れない」
ミャンマーといえばかつて、タイ、ラオスにまたがる山岳地帯が「黄金の三角地帯」と呼ばれ、ヘロインなどの原料になるケシが大々的に栽培されてきた。しかし2015年アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が政権を握ってからは、ケシに代わりコーヒーなど代替作物への転換が図られ、ケシ畑は徐々に減りつつあった。
しかし2021年、ミャンマー国軍が蜂起し軍事クーデターが勃発。軍事政権が実権を握ると、国際社会からの制裁もありミャンマー経済はガタガタに。そのため軍政は陰でアヘン栽培を促し、資金調達に手っ取り早い違法薬物製造に手を染めたと囁かれている。
もちろんミャンマー国軍は、表向きは薬物ビジネスなど決して認めていない。むしろ大量に押収した違法薬物を焼却し、撲滅を強調しているほどだ。だが、ミャンマー国民の多くや反政府勢力は「国軍のカモフラージュ、裏では違法薬物の密造、密売を指揮しているのは間違いない」と断言する。
もっとも、反転攻勢を強めている一部少数民族武装勢力とて、状況は変わらないという。一時は転作が成功しつつあったが、国軍と戦う武器調達のため再びケシ栽培・違法薬物生産に関与し始めた。また、貧困率が拡大する国民、貧しい山岳地帯の農民たちも「生きるため、わずかの食べ物を得るため」にケシ栽培や違法薬物製造に手を出す例もあるようだ。
こうした諸事情が積み重なり大量の違法薬物がミャンマーに溢れ、それが隣接するタイなどに密輸される。
「タイではミャンマー発の『ハッピーウォーター』などと称する合成薬物が低価格で手に入るため、アジア各国で爆発的に増えつつある。タイ政府は“若者への薬物のまん延は国を亡ぼす”としてミャンマー国境沿いの監視を強化。密売人摘発に力を入れ、射殺も辞さない構えだ。それでも流れを止められないで苦慮している」(犯罪ジャーナリスト)
日本も対岸の火事と安穏としてはいられない。警察関係者が指摘する。
「ミャンマーに隣接するタイなどでは違法薬物はグラム数百円~数千円だが、日本に入るころにはその価格が数百倍に跳ね上がる。このため日本は水際作戦の強化に努めるが、ミャンマーやタイの裏社会の人間たちは何とか日本に持ち込んで一攫千金を得ようとあの手この手を使っている」
かくして、ミャンマーの内戦が長引けば長引くほど違法薬物がアジアを中心に世界にバラ撒かれ、人間の体と心を蝕む危険性が確実に高まっている。
(田村建光)