11月下旬、政府は「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」として、住民税非課税世帯に3万円の現金給付をすることを決めた。そして子育て世帯には、子供1人につき、さらに2万円の給付もするという。石破内閣が提案した補正予算約13兆9000億円のうち、5000億円ほどがこのために使われる。
住民税非課税世帯という表現は、多くの新聞やテレビの報道で扱われる時に「低所得の」という表現がセットで使われる。今回ならば、低所得世帯の住民税非課税世帯に物価高対策として3万円の現金給付がされます─こんな調子だ。
多くの人が「政府は困っている人に現金を給付して助けている。当然のことだ」と考えるのが普通だろう。私も生活に困窮する低所得世帯に現金を給付するのは、現状では仕方がないと思う。本来は「まともに働けば、まともに生活ができるだけの給料がもらえる社会にする」のが政治の役割だと思うが、それは時間のかかることだから。
住民税非課税世帯に現金給付されるのは今回だけではない。コロナの時にも、コロナが終わった後にも何回も行われ、各地方自治体も様々な支援をしている。例えば東京都なら、米や缶詰などの食料品を現物給付するなどの支援をした。
多くの人が「お米を買うのも困っている世帯に支援するのは当たり前だ」と思った。ところが、東京都が支援した時は問題が起きた。メルカリやヤフオクで支援米を転売する人が多発したのだ。もらったお米を現金に変えなくてはならないくらい追い込まれているんだと同情の念を持った人も多いだろう。きっとそういう人が大半だとは思う。
もう一度申し上げるが、食べるのに困っている人たちへ支援するのは政治の役割だ。それに異論を挟む人は少数だろう。しかし、それにしても5000億とは尋常な金額でない。そこで私は調べてみた。
厚生労働省の調査(22年)によると、低所得の住民税非課税世帯は日本全体でおおよそ1300万世帯。すべての世帯数が5400万世帯だから、全体の4分の1が住民税非課税世帯ということになるが、私は疑いを持った。1300万世帯のすべてが生活に困っているのだろうか?
ここで気がついたのが、住民税非課税世帯には大きく分けて2つのパターンがありえるということだ。
一つは一般的なイメージの通り。低賃金のため、懸命に働いたとしても、まともな給料がもらえず、低所得で生活に困っているという支援が必要な住民税非課税世帯だ。
そしてもう一つは、お金があり、十分に暮らしていけるから働かない。働かなくても贅沢な暮らしができる低所得世帯だ。 貯蓄や証券、不動産などの資産はたんまりある恵まれた世帯と、生活に困っている世帯のどちらも低所得の住民税非課税世帯となり、今回、一律で3万円の現金給付が行われる。
果たして、恵まれた低所得世帯に支給をする必要があるだろうか?
以前、説明した医療費の窓口負担の上限金額、高額療養費制度も、資産はあっても低所得であれば、ほとんど窓口負担を請求されない厚遇を受けられる。メルカリで転売された東京都支給のお米の中には、大金持ちが「うちはもっとおいしいお米を食べているし、いらないので売ってしまおう」という、そうしたケースも含まれているはずだ、ということである。
低所得層の住民税非課税世帯という単純なくくりで、援助の対象を決めるのは正しいのか?
私は所得だけではなく、資産も含めて総合的に支援の対象を選別していくことが必要になっていると思うのだ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。