中国企業との決別を!米国が日本企業への警戒を強めるUSスチール買収計画“綱渡り状態”の核心部分

 米大統領選が近づく中、日本製鉄によるUSスチールの買収計画について、米政府が審査の延長を決定したことが報じられた。今後どうなるかは現時点で分からないが、バイデン政権は8月末に米鉄鋼業界にダメージを与え、国家安全保障上のリスクをもたらすと両社に書簡で伝え、外国企業による米国企業の買収案件を審査する対米外国投資委員会も書簡で中国への警戒感を滲ませ、同様の懸念を伝えたという。

 バイデン政権が買収に難色を示している背景には、大統領選を意識した狙いがある。トランプ氏はこの買収を絶対に阻止すると繰り返し強調しているが、そういった保護主義的な主張は概ね米市民に肯定的に受け止められている。そんな中でバイデン大統領が買収を認める姿勢を取れば、政権支持率が低下するだけでなく、選挙戦を戦う副大統領のハリス氏が大きく不利な状況に立たされる可能性もある。ハリス氏の勝利確率を上げるための市民へのアピールが狙いであることは間違いない。

 しかし、この問題の核心はそれではなく、中国にある。トランプ氏は政権1期目当時、大量に流入する中国製品によって米国企業が厳しい状況に陥っていることを警戒。関税を次々に引き上げ、バイデン政権も先端テクノロジー分野での優位性を確保するべく、先端半導体分野で中国への輸出規制を大幅に強化するなど、米国の対中排除姿勢はエスカレートしている。米国は中国企業による米国企業の買収案件でこれまでに7件を拒否しており、中国自身もそうした状況を十分に認識している。

 今回のバイデン政権の姿勢の背景にも、中国への警戒感が強く感じられる。日鉄は7月、中国の鉄鋼最大手である中国宝武鋼鉄集団傘下の宝山鋼鉄との合弁事業から撤退すると発表。日鉄としては中国企業との決別をアピールすることでUSスチール買収をスムーズに進めたい狙いがあったのだろうが、保護主義化する米国からすると、まさにそこが最大の懸念だろう。合弁事業から撤退したといっても、中国企業との長い付き合いがある、買収されれば間接的にでも中国企業と繋がることになるなど、米国はそこを強く警戒しているのだ。

 今後、米中対立がさらに先鋭化していけば、米政府は米国企業に接近してくる日本企業に対し、中国企業との関係や癒着がないことを示さないと買収には応じないなど、圧力を強化してくる可能性があろう。

(北島豊)

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