北朝鮮と韓国による“ゴミ風船”の飛ばしあいがなおも続いている。
韓国の脱北団体による対北ビラ散布が始まったのは今年4月のことで、5月には北朝鮮から汚物入り風船攻撃がスタート。その数は9月現在、20回にも及ぶとされるが、最近では風に乗って首都ソウルに落下していることから、一部脱北者団体からは、「許せない!だったら、こっちも平壌へ落としてやろう!」といった怒りの声が上がるなど、この騒動はまったく収まる気配を見せていない。
そんなゴミ風船の飛ばし合いを後目に、実は両国のある業界関係者らの間で、今年に入り取引が急激に活発化している商品があるという。それは、かつて「民族の伝統食」として親しまれた「犬の肉」なのだとか。朝鮮半島の食文化に詳しいジャーナリストが説明する。
「韓国人にとって『補身湯(ポシンタン)』や『栄養湯(ヨンヤンタン)』などの『ケゴキ』(犬肉)を使った料理は、昔から伝統的な特別食とされ、特に夏場、日本でいう『土用の丑』にあたる『三伏』には滋養食として親しまれてきました。犬肉には滋養強壮のほか、『怪我の治りを早くする』あるいは、肌がツルツルになる美容効果があるとされ、老若男女すべての世代から支持される人気の伝統食だったんです」
しかし1988年のソウル五輪や2002年のサッカーW杯韓国大会で犬肉料理がクローズアップされたことを受け、女優で動物保護活動家のブリジット・バルドーらが当時の大統領に書簡を送るなどして「W杯期間中は犬の料理を禁止にしてほしい」と訴えたことで、同調の声が殺到。結果、今年1月に「食用目的での犬の飼育・食肉処理・流通などを禁じる特別法(犬食禁止法)」が成立。違反者には最高で3年の懲役、または3000万ウォン(約330万円)の罰金が科されることになったのである。
「ただ、いきなり施行したのでは関係する業界が壊滅的被害を受けるため、保護の観点から法律の施行を公布後3年とする猶予期間が設けられたんです。そこで、在庫を抱えた業者がバイヤーを通じて、北朝鮮へ犬の肉を売り払っているとの情報が流れるようになったんです」(同)
韓国政府の発表によれば、23年度に韓国内で飼育された犬の数は推定50万匹。しかし、大韓育犬協会では「とんでもない、200万匹はいるはず」と韓国メディアに答えており、正直、正確な数字はわかっていないというのが実態のようだ。
一方、北朝鮮では金日成主席、金正日総書記時代から犬肉料理を「領導」していたこともあり、現在も犬肉スープのほか、蒸し犬肉、犬肉煮、犬ホルモン炒め、犬肉飯煮物など各種犬肉料理は伝統食として親しまれ、毎年夏になると犬肉専門食堂が大変な賑わいを見せているという。
「北朝鮮では牛肉は極めて貴重品で、豚肉は安いものの、農村で暮らす一般の家庭で飼育するのは難しい。そんな中、犬は飼料費が少なく済み飼育しやすく、不足する動物性たんぱく質供給ができる、まさに庶民の味方だった。しかも、北朝鮮では犬を連れて歩くことは、『ぜいたくでブルジョア的な堕落した行動』にあたるため、間違っても韓国のような『犬は自分の家族』などという考えが生まれないため、今後も犬肉文化がなくなることはないと考えられますね」(同)
北朝鮮では7月22日からの3日間、朝鮮料理協会中央委員会の主催により、平壌黎明通りの料理祝典場で北朝鮮各地から有名な犬肉専門店が参加、実力を誇る関連大会が開催されたばかりだが、
「平壌の寺洞区域などの都市には、たいがい『ケチョン(犬村)』と称される犬肉だけを扱う店が集まったエリアがあり取引されています。ただ、需要が急増する夏の時期には価格も当然高騰しますからね。一方、販売ができなくなる韓国の犬肉業者としては、犬食べ禁止法施行までの3年の猶予期間中に、なんとか在庫を売り捌きたい。そこで両者の利害が一致し、廃業を考えている韓国の業者が次々に北朝鮮へ犬肉を転売しいていると言われているんです」(同)
報道によれば、韓国政府に対し大韓育犬協会は、10万人に上るとする業界関係者への補償を求めているとされるが、はたして、この犬肉問題の行方は…。
(灯倫太郎)