「㊗喜寿対談」弘兼憲史×北方謙三「不良人生論」!(2)女性に人畜無害と思われるのが大事

弘兼 北方先生は釣りがお好きでしたよね。今でも行かれていますか?

北方 僕は10日間が海の別荘、10日間がホテル、あとの10日間が自宅という1カ月のルーティーンで生活しています。海にいる時には毎日ではないですけれど、船を出して釣りをしていますよ。この7年くらいの間に釣った大物といえば、せいぜい10キロのハタですかね。海の上に出ると、結構揺れるので、ただ立っているだけでもどこかに力を入れていなきゃいけない。釣りの最中も魚を処理する時も、バランスを取らないといけない。それが体の軸を作ってくれている気もします。

弘兼 すごくいい趣味です。やっぱりホテルにいる時が一番仕事をするのですか?

北方 いや、実はホテルにいる時は毎晩のように飲みに行っているので、ほぼ仕事はしていません(笑)。自宅にいる時が一番仕事をしています。飲みに行けるところもないし、自室にこもって作業して、ご飯ができたら内線で呼び出されて、ダイニングに下りていくという感じです。

弘兼 じゃあ、今が一番楽しい期間ですね(笑)。

北方 ただね、飲み過ぎるんです。毎日夕方くらいに出かけて、食事に合わせてワインや日本酒を飲む。食べ終わったら、その店の近くにあるバーに行ってみる。そこで飲み始めたら「もう一軒行こう!」となる。ホテルに戻ってきて飲み足りないと思ったら、ホテルのバーに行く。0時でバーが閉まってしまうので、さらに飲みたい時には、部屋に氷とウイスキーを頼んで飲みます。

弘兼 さすがハードボイルド。お好きなウイスキーの種類は?

北方 シングルモルトが多いですね。アイラ島で作られたスコッチが好きです。

弘兼 独特のピートの香りが癖になる方、多いですよね。ところで北方先生は今も銀座に行かれていますか。

北方 行きつけの数軒にはまだ顔を出します。昔はある銀座のクラブで3人の女の子に手をつけて、ママに呼び出されて大説教されたこともありましたけれど、今はおとなしいもんです(笑)。最近も、あるクラブで飲んでいたら、私よりずっと年上の方が1人で飲んでいました。聞いてみると「俺はまだこの店で酒を飲んでいられる」というのを確認するために来ているそうです。

弘兼 「俺は銀座で飲んでいるくらい元気だ」と自己確認するために来ている人もいるんですね。私は最近、昭和スナックのような店によく行きます。

北方 弘兼先生は歌われるんでしたっけ?

弘兼 私はもう声が出ないのでそんなに歌いませんが、周りに歌好きが多いんです。歌う時は「黄昏のビギン」とか「ヨコハマホンキ―トンク・ブルース」とかかなあ。北方先生は若い方とも飲みに行かれます?

北方 20代の女性ともデートします。そしておいしいものを食べに行きます。おいしいもの好きじゃない人なんていないでしょ?

弘兼 若い世代の人だと、話が合わない場合もありませんか。例えば、モデルみたいなキレイな人でも、話が合わないと会話が途切れてしまうというか。

北方 そういう時は、音楽の話をすればいいんです。どんな音楽が流行っているか教えてもらったり、逆に「僕はこういうバンドが好きなんだけど」と話題を振ったりすると盛り上がる。音楽って世代を超えるんですよ。あと、僕はロックが好きで、尾崎世界観が大好きなんです。だから「クリープハイプのライブに一緒に行こう」と誘ったりしてね。

弘兼 さすがお若いですね!

北方 僕はね、まずは人畜無害と思われることが大事だと思うんです(笑)。最初からギラギラしていたら、警戒されるじゃないですか。

弘兼 確かに。

北方 40代、50代の頃は僕もかなり下心を前面に押し出して、女の子が「もうわかったから!」と観念するっていうスタイルでした。とはいえ、人畜無害だと思われたら男として意識されないので、序盤に「君みたいな若い女の子が俺のような男に恋をすることは90%くらいない。でも、10%は可能性があるかもしれない。だから、俺は残り10%に賭けている。君と会う時はご飯だけじゃないんだよ」ということは伝えます。

弘兼 現役ですねぇ。熟女はどうですか。

北方 40代、50代の女性とも行きます。女性は若ければいいというわけではなくて、年齢関係なく人によって魅力が違いますからね。熟女といわれる年齢でも、ワインのように熟成するとおいしいという人もたくさんいます。

北方謙三(きたかた・けんぞう)1947年、佐賀県生まれ。中央大学法学部卒。81年、「弔鐘はるかなり」でデビュー。91年「破軍の星」で柴田錬三郎賞、05年、「水滸伝」全19巻で司馬遼太郎賞、11年、「楊令伝」全15巻で毎日出版文化賞を受賞するなど数多くの賞を受賞。13年、紫綬褒章受章。16年、「大水滸伝」シリーズ全51巻で菊池寛賞を受賞。20年、旭日小綬章を受章。24年「チンギス紀」(全17巻)で毎日芸術賞を受賞。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部。松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に「風薫る」で漫画家デビュー。84年に「人間交差点」で小学館漫画賞を受賞。91年「課長島耕作」で講談社漫画賞、00年「黄昏流星群」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、03年日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年には紫綬褒章を受章。「弘兼流60歳からの手ぶら人生」など著書多数。

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