弘兼 漫画家の仕事には定年がありません。つまり、僕らの場合は死ぬまで描き続けることができますが、役者さんはどうですか。
宅麻 役者も定年はないし、年を取れば、年を取ったなりの役というのもあります。僕も本当は枯れた爺さんの役なんかもやってみたいですけどね。
弘兼 う〜ん、身長もあるし、二枚目だからなぁ。しかも、ガタイもいいから弱弱しく見えないですよね。
宅麻 そうなんです、だから同情されない(笑)。結局、回ってくるのが頑固な爺さん役になっちゃう。
弘兼 ところで、このところ役者さんや芸人さんが亡くなっていますよね。共演したことはありましたか?
宅麻 俳優の渡辺裕之さんとは40年来の知り合いでしたからびっくりしました。素晴らしい才能を持った人だったので残念でなりません。タレントの上島竜兵さんとは、一度ドラマでご一緒しましたが、とても物静かな方でした。テレビでの賑やかなイメージがあったので驚いた記憶があります。
弘兼 近年、漫画家の世界でも藤子不二雄Aさんやさいとう・たかをさんなど、巨匠と言われた方々が相次いで亡くなっていて、僕も「死」を身近に感じるようになりました。僕は死期が迫ってきたら病院に入らず、机の上に突っ伏して─という感じで仕事の最中に死にたいと思っているんですが、宅麻さんは、「死」を意識することはありますか。
宅麻 ありますね。独り者だし、風呂が好きなので、風呂場で亡くなったというニュースを聞くと気をつけなければと思います。
弘兼 僕はこの年齢になると、「死」というのを常に考えて逆算しています。例えば、ゴルフのラウンド。80歳までにはあと5年なので、その中でいったいどれくらいの回数ができるか。今、100回を目標にしています。となると、1年に20回の計算になりますね。あと、死ぬ前に銀座の寿司屋に何回行けるか、と逆算したりして。そうやって人生を楽しんでいます。
宅麻 なるほど、ある程度の年齢になったら、終活するうえで、それはとてもいいヒントになるかもしれませんね。
弘兼 この間、あるテレビ番組で医師の和田秀樹さんが「血圧もコレステロールも正常値だからといって問題ないと思うのは危険」と言っていたんです。とにかくストレスをためないように生きることが大切だ、と。様々な欲求を節制することで、ストレスをためてしまったら元も子もない。そのためにも断然、一人暮らしがオススメだと思います。
宅麻 ハハハハ。でも、そうなると、中高年男性の熟年離婚が増えて困るかもしれませんね。ともあれ、ストレスをためないことが一番ですね。
弘兼 というわけで、ストレス発散に、そろそろ飲みに行きますか。
宅麻 はい、そうしましょう(笑)。
宅麻伸(たくま・しん)1956年岡山県出身。1979年「新・七人の刑事」(TBSテレビ)新米中野刑事役でデビュー。主な代表作には「おんな太閤記」(NHKテレビ)、「課長 島耕作」シリーズ、「法医学教室の事件ファイル」シリーズなど。近年は、映画「ウルトラマントリガー エピソードZ」(22年)にシズマミツクニ役で出演するなど幅広く活躍中。
弘兼憲史(ひろかね・けんし)1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部。松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に「風薫る」で漫画家デビュー。84年に「人間交差点」で小学館漫画賞を受賞。91年「課長島耕作」で講談社漫画賞、講談社漫画賞特別賞、00年「黄昏流星群」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、03年日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年には紫綬褒章を受章。
*「週刊アサヒ芸能」6月23日号より