弘兼憲史vs宅麻伸「楽しい終活のススメ」(1)島耕作はなんて運のいい男だと…

 週刊アサヒ芸能の好評連載が200回を突破。これを記念して漫画家・弘兼憲史氏と俳優の宅麻伸氏とのスペシャル対談が実現! 「島耕作」シリーズが93年にドラマ化された際に、主役を演じたのが宅麻氏。旧知の間柄である、現在74歳と66歳の2人が健康の秘訣、老後の暮らし方など無理をしない〝終活〟の極意に迫る!

弘兼 今日はテレビドラマのロケ現場を終えて直行してくださったのだとか。お忙しい中、お越しくださいましてありがとうございます。

宅麻 こちらこそ記念すべき200回の対談ゲストに呼んでいただきましてありがとうございます。今、ちょうど小泉孝太郎君と2時間ドラマを撮影していまして、早朝からロケでした。

弘兼 僕は早朝からゴルフで(笑)、先ほど東京に戻りました。

宅麻 先生に最初にお目にかかったのは、フジテレビのドラマ「課長 島耕作」を演らせていただいた時ですね。僕が33、34歳の頃でした。あれから30年経つんですね。

弘兼 早いものですね。途中ブランクはありましたが、ここ3年くらいは時々お目にかかるようになりましたね。

宅麻 この間も、都内の某餃子店に連れて行っていただきましたが、先生は本当にいろいろなお店をご存知なので、いつも驚かされます。

弘兼 ところで「課長 島耕作」のキャスティングには、実は3人ほど候補の方がいたみたいですね。最終的には宅麻さんに決まりましたが、当時、演じてみていかがでしたか?

宅麻 とても理解できる題材で、難しいことを考えずに臨めました。印象的だったのは「なんて運のいい男だ」ということ。仕事運もいいし、女運もいい。

弘兼 とはいえ、人間の人生なんてそう年がら年中、ついているわけはない。だから、あえて晩節はちょっと失敗したという形で「相談役 島耕作」の話は終わらせたんです。

宅麻 なるほどなぁ。やっぱり、先生の作品は奥が深い。先生は原作者として、ドラマや映画になった作品をどう見ているんですか?

弘兼 原作者の中には脚本に口を出す人もいますが、僕は一切、口出しはしませんね。漫画の原作というのは、たとえるなら料理と同じです。肉という素材を渡して、それをどう料理するかは料理人、つまり製作側の仕事。僕らは完成された料理(番組)を見るだけでいいのです。

宅麻 演じる側から言わせていただければ、ほんと、先生は神のような存在です。

弘兼 ところで宅麻さん、今おいくつでしたっけ?

宅麻 66歳です。

弘兼 僕は今年の9月で75歳になります。いよいよ後期高齢者です。

宅麻 とてもそんなお年には見えません。いつお目にかかっても本当にお若いですね。いつ頃から老いを感じるようになりましたか?

弘兼 これが若い頃とまったく変わっていないんです。頭の中身も小学校5年生のまま止まっています(笑)。でも、かえって脳を活性化させているんじゃないかと思うんです。よくおじさんがダジャレを言うのも、あれは脳が一生懸命考えている証拠なのではないでしょうか。

宅麻 若い人は〝引く〟と思いますが(笑)。

弘兼 ただ、階段を上がる時、以前のように軽やかに上がれなくなった時には、さすがに老いを感じました。一段飛ばしで上っていたのが一段一段確認するように丁寧に上ったりとか。

宅麻 僕も芝居で、階段をダッシュで降りるシーンがあった時に怖いなぁと感じるようになりました。昔は全然平気だったのに、知らない間に手すりなんか持っている自分に気づくと、これが老いなのか? って思うようになりました。

弘兼 僕は普段、座っている仕事なのでどうしても運動不足になります。で、健康維持のために何かやろうと思ってゴルフを始めたんです。この間計ったら、ゴルフで1日2万歩くらい歩いているんですね。かなりの運動量です。宅麻さんは健康維持のために何かされていますか。

宅麻 僕は夜、暗くなると、厚着してだいたい7キロ〜10キロくらい歩いています。

弘兼 何だか夜行性動物みたいですね。

宅麻 いや、本当にそうですよ。なんで近所をうろうろしているんだって。でも、汗をかいて自分が努力した証しが欲しいんです。長袖で7キロくらい歩くと汗びっしょりになります。俺って頑張っているなって思えるから。

弘兼 ただ、あんまり頑張りすぎると年齢的にもヤバいんじゃないですか?

宅麻 そうですね。こまめに水分補給はするようにしています。

宅麻伸(たくま・しん)1956年岡山県出身。1979年「新・七人の刑事」(TBSテレビ)新米中野刑事役でデビュー。主な代表作には「おんな太閤記」(NHKテレビ)、「課長 島耕作」シリーズ、「法医学教室の事件ファイル」シリーズなど。近年は、映画「ウルトラマントリガー エピソードZ」(22年)にシズマミツクニ役で出演するなど幅広く活躍中。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部。松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に「風薫る」で漫画家デビュー。84年に「人間交差点」で小学館漫画賞を受賞。91年「課長島耕作」で講談社漫画賞、講談社漫画賞特別賞、00年「黄昏流星群」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、03年日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年には紫綬褒章を受章。

*「楽しい終活のススメ」(2)につづく

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