スティーブン・スピルバーグ監督がメガホンをとり、トム・ハンクス主演で2004年に公開され、大きな話題を呼んだ映画「ターミナル」。
物語は、祖国で突然クーデターが起こり、パスポートが無効になって、アメリカ入国を禁じられたことで、ニューヨークのJFK国際空港内で生活することになった男と、彼を取り巻く空港の人々との交流を描いたヒューマンドラマだ。
映画のモデルとなったのはイラン出身のメフラン・カリミ・ナセリ氏。彼は、オランダのブリュッセルから英ロンドンまでの移動中、難民パスポートを紛失してしまう。そのため、経由地点のフランスから入国を拒否され、なんと1988年から2006年までの18年間、シャルル・ドゴール空港のターミナル内で生活した。
ナセリ氏は1945年、イラン南西部フゼスタン州生まれ。74年に英国留学し、帰国後には反政府運動に関わったとして国外追放され、ベルギーで数年間過ごした。その後は前述のように、パリ郊外の支援施設に移されるまでシャルル・ド・ゴール空港で過ごした。現地メディアにもたびたび登場する「有名人」だった。
ところが、そんなナセリ氏同様、今も空港ターミナル内で生活している男がいるという。空港の所在地は南米チリ。地元のメディア「チリビシオン」などが報じ、話題になっている。
「『チリ版ターミナル』としてメディアが報じているのが、ハイチ出身のジョセフ氏です。報道によれば、44歳の同氏は、2016年に建設関係の仕事を探すためにチリに入国。しかし5年ほど働いた後、整理解雇されてしまいます。その後も仕事にありつけず、ハイチに戻ろうとしたものの、40万チリペソ(約6万3000円)の航空運賃を捻出できず、2020年からチリのサンティアゴにあるアルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港のターミナル内で寝食するようになったのです」(外報部記者)
ジョセフ氏の場合は映画のような複雑な事情があったわけではなく、「金欠」が理由だった。しかも、「暮らしてみたら意外に居心地がよかった」といい、以来、同氏は空港利用客からの「寄付金」を収入源として暮らしているという。
「現地メディアが取り上げたのは、ジョセフ氏が小さなカートに荷物を載せて空港内をぶらぶらしている様子がSNSにアップされたことがきっかけでした。ジョセフ氏は動画の中で、『私は(ハイチの)パスポートを所持している。人道主義的な支援を受けられるメキシコに行くのが私の目標』と話していますが、メディアに取り上げられたことで、在チリハイチ大使館も『領事助力を提供するかどうか検討している』とコメントしています」(前出・記者)
ちなみに、冒頭のナセリ氏は、いったん空港を離れたものの再び舞い戻り、ターミナル生活を再開している。しかし、2022年11月12日、空港内で心臓発作を起こして亡くなった。80歳だった。
(灯倫太郎)
*写真はイメージ