中国経済は不動産バブル崩壊と米国の分断政策で総崩れの状態にある。一言でいえば、内憂外患の難局の万策が尽きている。そこで、「溺れる者が藁を掴む」が如く、国民の不満、批判を逸らすために「台湾有事」を叫び、危機感を一段と強めている。しかし、これは「演出」との見方が強い。
台湾有事の「旗(演出)」は経済不況に苦しむ習近平政権にとって、国民の求心力を維持する最大の力になっているから、簡単に旗を下ろすわけにいかない。
そのために、財政難に苦しむ中で人民解放軍への予算拡大に追われ、昨年は30兆円を優に超え、本年は40兆円に迫ったと推定されている。しかも、国防予算の拡大は人民解放軍を勢いづかせ、国際的な緊張を高めるばかりか、中国の財政に取返しのつかないほどの打撃を確実に与えていく。この財政事情を認識したうえで、誰も語らない台湾有事を考えてみよう。
中国政府の対台湾発言を見ていると、台湾侵攻の準備が整い、後は「号砲」を待っているだけと思えるが、実際はまったく異なる。まず、ハッキリしていることは、習近平中国は負ける戦争は絶対に出来ないということだ。100回戦って、99回勝てる状況にならない限り、人民解放軍が攻撃を仕掛けることは有り得ないのだ。
台湾侵攻に失敗したり、戦線が膠着状態に陥ったりしたら、習近平政権の存続が問われるばかりか、共産党の「信頼」が傷つき、「党」の存続が揺らぐような、暴動が発生することになるからだ。こう伝えると、自民解放軍が豆粒のような台湾を制圧出来ないはずがないと反発する人もいよう。しかし、もともと台湾は蒋介石の国民党軍が逃げ込んでから、中国共産党と戦うことを前提に、台湾本島をゲリラ戦に耐えられるよう要塞化してきた。
人民解放軍が核ミサイルの保有大国と誇っても、要塞化された台湾本島への侵攻は容易ではなく、人的損失がロシアのウクライナ侵攻の比ではないほど膨大なものになると予想されるのだ。
つまり、習近平中国が軍事的に台湾に勝ったとしても、人民解放軍は膨大な死傷者を生む、戦時体制による経済的損失や国際的なイメージの低下など、中国への打撃は「天文学的」なものになることが目にみえている。それでなくとも、中国は国民を監視するために、国防費を超す予算を使っている。台湾有事は「重荷」なのだ。
(団勇人・ジャーナリスト)