気がつけばこの5年で50円の大幅円安。当然、ドル以外の通貨に対しても円安となっており、日本よりも物価の安かった東南アジアの国々でもそれは例外ではない。特にタイやマレーシアは老後の生活拠点として人気があったが、急激な円安・物価高の影響で移住を諦める人が増えているという。
外務省「海外在留邦人数調査統計」によると、23年のマレーシア・クアラルンプールの在留邦人数は前年比21.2%減、フィリピン・マニラは13.2%減、タイ・バンコクは8.6%減と物価の安さでリタイア生活者に人気の東南アジアの3都市で大きく数を減らしている。
その数字にリタイア生活者がどれだけ含まれるのかはわからないが、バンコクの日本人向け不動産会社の担当者は「シニア層からの物件の問い合わせはかなり減っています」と話す。
「コロナ禍で帰国し、そのまま日本に住み続けている方も多いですし、タイに戻ってきたものの家賃の急激な上昇などを理由に再び帰国された方も少なくありません。バンコクでは外国人向けコンドミニアムが物凄い勢いで高騰しており、この2年で家賃が倍になった物件もあるほどです」(不動産会社担当者)
しかも、こうした家賃相場の大幅な上昇は東南アジア全域で見られる。特に都市部に限っていえば、現在は日本よりも金がかかるとさえ言われているとか。
「どの国でも家賃が安い地方に暮らし、食費も屋台メシ中心なら安く抑えられますが、シニア層でそこまでして海外に住みたいと考える方はほとんどいません。ウチみたいな不動産仲介業者には痛手ですが、家賃安や物価安という最大の魅力を失いつつある以上、移住先となり得ないのは当然のことです」(同)
「定年したら海外でのんびり…」と老後の青写真を描いていた人は多いかもしれないが、もはや東南アジアですら庶民には手が届かない移住先となってしまったようだ。