中国の国際関係は過ってないほど悪化している。見逃せないのが、習近平政府が小学生から大学生に至る全学生に向け今年1月、「愛国主義教育法」を施行したことだ。これは、欧米、日本を含めた旧西側世界の分断策に対して愛国心を鼓舞させ、中国共産党の存在感を揺るぎのないものにするためのものである。
しかし後述するが、「愛国教育」による民族主義の強引な高揚は、中国社会に想定外の事態をもたらす危険を孕んでいる。
まず知っておきたいことは、「愛国教育」は最近になって始まったことではないということ。もともとは毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国すると、「人民を苦難の中から解放し、まともな暮しをできるようにしたのは共産党である」として、共産党を「愛し」「尊敬する」よう求めて始まったものだ。要するに、愛国教育の本音は「愛党」教育である。
本当に愛国教育が狙いなのであれば、4000年の歴史が誇る漢字や火薬、漢方などの「文化」が教育の基本になるはずだ。しかし、共産党が建国されると政治闘争が繰り返され、文化大革命に象徴されるように古い文化を根こそぎ消し去ろうとした時代が続いた。
そうした中、毛沢東時代の国民は、学校や職場で「共産党がなければ『新中国』が存在しない」といった訓話を毎日聞かされ、愛国歌謡を歌わせられた。当時は、徹底した鎖国主義の時代だったから、愛国キャンペーンで人民は完全に洗脳され、「党」は権威を保った。
毛沢東に次いで、愛国教育に力を入れたのが、鄧小平氏の押しで国家主席となった江沢民氏である。
政権基盤が弱かった江沢民氏は1991年にソ連が崩壊すると、共産党の存在が「危うい」と恐れ、「愛国主義教育実施要項」を打ち出して日本叩きに異常な熱を注いだ。抗日戦争関連の映画やドラマが連日放映され、江沢民氏引退後の2005年には中国全土が反日暴動で揺れ、熱狂の反日時代となった。
だが、共産党が厳しい監視体制を確立したうえで、さらに愛国教育を進めようとしたものの、今や大多数の中国人はインターネットや海外旅行で外の情報を手に入れており、共産党になびいたフリをする知恵を持っている。
経済低迷で閉塞感が広がる中で、愛国教育すればするほど中国の実情を知る人々の不満が高まり、求心力が問われる共産党は対処できなくなるだろう。
(団勇人・ジャーナリスト)