多くの人からよく「東京は住民税が高くて大変でしょう」と質問される。田園調布や成城などに住むと税金も高いだろうと思っている人も少なくないが、実は住民税は全国どこに住んでも同じ。所得によって変わるだけだ。地方によって独自の税金を定めているところもあるけれど、ごくわずかしか変わらない。
ただし、住む場所によって大きく変わるものがある。それは水道代と国民健康保険の毎月の保険料だ。
水道代は水道管の口径と水の使用料で変化する。その料金は市区町村で差があるのだ。同じ口径、同じ水の使用量で比べてみると、最も安いところと高いところでは8倍くらい違う。1カ月の全国平均は3240円くらいでも、安い地域は850円、高い地域は6800円だったりする(口径13ミリ、使用量20立方メートルで比較)。
都道府県別に比べると、最も安い神奈川県が2142円に対して、最も高い青森県は4418円と2倍以上違う。水は人が生きていくのに最低限必要なものであるが、同じ日本に住んでいてこれだけ料金が違うのだ。
このような例を出すと、都会は人が密集して住んでいる分、料金は安いけれど、地方は人口が少ない上、広いところに分散して住んでいるから高くなっていることがわかる。ただし、都会は料金が安くて、地方は高いのかといえば、そう簡単ではない。
水道料金の安い県ランキング2位は高知県で2332円、3位の静岡県は2351円、4位が山梨県2366円と続き、ベスト10以内には群馬、福井、鳥取県も入ってくる。群馬県は6位で2454円だが、栃木県は25位で3089円、茨城県は42位で3907円。これら隣り合う近県同士でもこれだけ違う。
仮に毎月水道代が2000円安いところに住むと10年で24万円、30年で72万円の差となる。ネットで調べれば自分が住んでいる自治体の水が安いか高いかはすぐにわかる。同じ県内でも市区町村が違うだけで大きく変わることも多いので、一度、調べておきたい。
人口減少の日本にとって、人々ができるだけ集まって住むことは、様々な公共サービスの質の向上と価格の引き下げにつながる。水道代だけでなく、行政サービス、公共交通、教育や医療サービス、買い物などといった暮らしに必要なこと。それらは、できるだけ人の多いところで暮らす選択をするのが賢いことがわかる。
もう1つ、地方自治体によって大きく変わるのが国民健康保険の保険料だ。国民健康保険料は、所得によって変わるだけではなく、同じ所得でも住む自治体によって違う。自治体によって税率が異なるからだ。
それらは各自治体の財政事情や人口構成比などが影響している。ちなみに、最も安いのが埼玉県だ。同じ所得でも住む場所で年間数万円違うこともザラなので、長い年月では100万円単位の差になってくることもある。水と医療だけではないのだ。
私はこの3~4年で日本国内を大いに旅行したのだが、必ず庶民的なスーパーに入って物価がどれだけ違うのか、賃貸住宅の家賃はいくらぐらいかを調べることにしている。その地域の生活が見えてくるからだ。
家賃は地方の方がやや安いが、スーパーの食品や日用品の価格は同じ地域に複数店舗が出店し、しのぎを削る都市部の方が断然安い。地方暮らしは車とガソリン代も必須で、公共交通はおしなべて都会に比べ高い。
老後は気に入った地方で暮らそうと思っていたのだが、どこもかしこも東京より高くつくところばかりだった。地方には大いなる自然と文化があり、ゆったりした時間が流れて魅力に富んでいる。しかしそのコストの高さに、諦めるしかないかと思っている。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。新刊「つみたてよりも個別株! 新NISA この10銘柄を買いなさい!」(扶桑社)が発売中。